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許しと謝罪

 YOASOBIの楽曲「アイドル」が米ビルボードでⅠ位になったというのには少なからず驚いた。さっそくどういうものかとアニメ「推しの子」をケーブルで観てみる。「アイドル」はこれの主題歌なのである。

 そのタイトルからして普通なら絶対に観ないし、はっきり言って面白くもないんだろうと思っていたのだが、その予想は大きく外れた。まず奇想天外な設定に感心しつつも、最初はちゃらけた転生ものの部類かなと思うのだが、ストーリーの骨太さがあらわになっていき、その奇想な設定を凌駕していく。この作者は相当なものだ。6~7話あたりでは、登場人物の少女がSNSの世界に言及する台詞にぶっ飛ぶ。「こちらが深淵を覗いているときに、深淵もこちらを覗いている」。おお、サルトルじゃないの! 読んだの50年以上前だぞ。

 YASOBIが主題歌を引き受けるのも分かるね。日本のアニメはすばらしい。そういえば「ワンピース」の作者が眼の手術で休載と聞いたときには心配したが、1ヶ月ほどで戻るらしい。よかった。僕が死ぬ前に完結して欲しいからね。

 最近はほとんど観ないが、テニスの世界では加藤未唯が注目の的だ。全仏のダブルスで、ボールガールにボールを当てたことで3回戦競技途中で「失格」。しかし、その後混合ダブルスでは優勝。下書きを見ながらだったが、そのスピーチはなかなか見事だった。

 で、失格のシーンだが、失格となるほどの過失ではなかった。しかも、相手ペアもそのときに別の方向を向いていて打球の行方を見ていない。見ていたのは加藤本人と観客だけ。しかし、このペアは加藤を失格にするべく執拗に抗議したのだった。加藤は映像を見てくれるように抗議したが、それは受け入れられなかった。そして失格。賞金とランキングポイントが剥奪される。

 加藤はインスタで謝罪を述べるとともに、再裁定の要請もしている。世間一般、ナブラチロアといったテニスの関係者はみな加藤に同情、謝罪など必要ないと言い、相手ペアの卑劣さと協会の不手際をなじった。もうこの時点で加藤の名誉挽回は時間の問題だと思っていたのだが、混合の優勝はとどめを刺したのではないか。優勝スピーチで加藤は、賞金とポイントが復活することを願っていると述べた。当然の要求とは言え、なかなか堂々と要求するもんだなと思ったが、あの相手ペア、世界中からバッシングされているチェコのスペインのペアには救いの手を差し伸べた。「彼女たちとまた良い試合をしたい」と言ったのである。

 これを聞いて、その後も自分たちは悪くないと言い張るあの2人はどう思ったのだろうか。もちろん私たちが悪かったなどとは口が裂けても言わないだろうが、何か揺さぶられるものがあるのかなあ。そのへんがわからない。

 このへんが日本人と外国人との大きな違いである。インスタで加藤は謝罪をしているわけだが、本当に悪いとは思っていないはずだ。にもかかわらず、日本人は謝罪するのである。外国人は絶対にしないよね。

 よく言われるのは、交通事故などで謝ってしまうと、すべて自分が悪いと認めることになり、責任や賠償などがすべて自分に来るという考え方だ。しかし、日本の法律では謝罪したからといってそうはならない。では外国ではというと、英米法であってもそれは同様である。謝罪イコールすべての責任・賠償ではないのである。

 さて、しかし、日本人は法律のことを知った上で、安心して謝罪するわけではない。ただし、謝罪と責任はまた別の問題だとは思っている。あるいは謝罪することで相手が手を緩めてくれるという考えもあろう。

 しかし、何といっても、その後の人間関係ということを重要視するからではないかと思う。たとえば、職場内で何事かのトラブルがあったときに、責任や賠償といったところまで話が行くとその後も敵対的な関係が続いてしまう。そのような緊張に日本人は耐えられない。各国を転戦するテニスサークルにあって、これからも数え切れないほどに顔を合わせる選手たちである。自分への敵意を感じながら過ごすのは凄いストレスであろう。加藤はそれを避けるべく相手ペアを許したのである。外国人から見たら、すばらしい「スポーツマンシップ」となるが、これはきわめて日本人的な感覚からくる結論であろうと思う。

 ただし、許したり、謝れば上手くいくことが多いというのは日本社会だからこそだろう。たとえば韓国相手に謝れば、相手は更に傘にかかってくると予想されるしね。

 でも加藤未唯は世界で名を上げたね。よかった、よかった。中華航空のバカ女の件が打ち消されればいいのだが。

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