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水の力

今週は曜日の感覚を無くしてドジッた。23日が祝日だったせいかな。

 このところ、食べ物の話が多いが、まあ術後は楽しいことがあまりないので、食べることに走ってしまうのかも。とはいっても外食はほぼできないので、本とか映像で観ることで楽しむことが多くなる。

 最近楽しいのは、外国人が日本の食べ物に感動するユーチューブだな。刺身、寿司、お好み焼き、たこ焼き、うなぎ、すき焼き、しゃぶしゃぶなどが定番で、外国人がみな一様に驚き、感動するのである。そりゃそうだろう。日本よりも「美味い国」なんて他にないでしょ。イタリアぐらいじゃないの、日本人から観て許せるレベルは。それもピザとパスタぐらいか。

 というのも、地質学者巽先生によれば、パスタに使うデュラム小麦はヨーロッパの硬水でないとうまく茹で上がらないのだそうだ。だから日本では限界があると。パスタをつくるたびに、エビアンとかコントレックスを使ってたらコスパがたいへんなことになるしね。

 同じように、日本の水や出汁で肉を料理をすると、どうしても獣臭が抜けない。それがさらに日本の魚文化が繁栄した裏の事情ではないかと巽先生は語る。なるほどねえ、基本は水だと。

 海外と比べて、日本の河川の高低差、落差がひじょうに大きい。明治時代に河川の防災工事のためにやってきたオランダの技師は、富山の常願寺川を見て「これは川ではない。これは滝だ」と言ったらしい。富山に限らず、日本の川は流れが速く、したがって早く海に到達するので、カルシウムやマグネシウムといった成分を溶かす時間がひじょうに少ない。その結果、ごく一部を除いて日本は全国的に軟水である。で、日本酒のような酒を生むことにもなるのだが、一方で、肉料理を困難なものにもすると。

 肉料理にネギが多用されるのは当然臭み対策であるし、ひょっとしてすきやきで生卵を使うのも端緒はそうだったのかもしれない。 外国人はすき焼きで生卵を使うことにひじょうに驚くよね。そして食べると、そのうまさにもっと驚くよね。まあだいたいにおいて外国人は味覚が単純だから、はっきりした濃い味が好きのようだ。ラーメンでも豚骨が大好きみたいだし。すき焼き、うなぎ、すしではトロ、穴子。マヨネーズたっぷりのお好み焼きとかね。近年の日本の若者と酷似している。まあそういうものも日本にはたっぷりあるし、食を含めて、海外での日本人気は「うなぎ登り」のようである。

 無論僕もうなぎは好きだ。が、それもいいうなぎを食べられるようになってからだな。昔はそんなに好きじゃなかった。うなぎは高くないと美味くない。ワインと一緒。

 有楽町にあるひつまぶしの店がいい。僕はひつまぶしが一番好きかも。邪道か? でも、うな丼、うな重は当たり外れが激しいんだよね。

 蒲焼きは、関西風、関東風も、どっちがいいかは何とも言えんな。関西は腹開きで、蒸さないで焼く。関東は背開き、蒸しから焼く。関西のほうが甘くて濃いかな。背と腹の違いはエスカレーターと同じ。江戸は武家文化で「切腹」は縁起が悪いとされたのである。こういうのが面白いといえば面白い。これは文化的な理由。

 穴子は、関西が焼き穴子、関東は煮穴子。これもどっちが美味いとは言えないのだが、関西のいい穴子は明石から高砂にかけての海岸沿いの砂地らしい。これに対して江戸前の穴子はどちらかというと泥場。その辺の違いから、調理法も違ってくるのではないかと思われる。こっちは地質的な理由。

 結局、どっちの調理法も正しいということだろうね。

 で、思い出した。今まで一番美味いと思ったのは、昔、別府の寿司屋で食べた穴子のにぎりなのだが、たぶん別府湾で獲れたとしたらあそこは砂地だと思うんだよね。カレイが有名だし。だから慣れない焼き穴子でもあんなに美味いと感じたんだと思う。翻って、一、二年前に練馬にできた「穴子専門店」がまずいのは、泥場で獲れたものを関西風に調理しているからかなあとも思った。確かなことではないんだけど。でも、あのまずさには理由があるはずだからな。料理人もいろいろ勉強しないとダメだよね。西荻窪の某とんかつ屋もそうだな。

 昔。TCCが四谷にあったときに。近くに日本酒の多彩な居酒屋ができてよくいったものだが、そこのマスターの日本酒に対する造詣はすごかった。産地、酒蔵にも熱心に足を運び。その酒を造る水にもこだわっていたなあ。酒を勉強するということは水を勉強することだ。そばとかうどん、豆腐なんかもそういうことだよね。

 銀座に移ってから、一度以前のスタッフに誘われて、10年ぶりくらいにこの店を訪問したが、ミシュランにも載るほどになり、予約するのも大変な店になっていた。どんな世界でも、成功する人っていうのはそういうものだ。

 春に、恒例のゴルフに行く先にうなぎ屋があるのを見つけたのだが、そこでは注文があれば関西風でも関東風でもつくれますとあった。珍しい。値段はなかなかだが、ぜひ皆さんを連れて行きたい。

 が、やはり当たり外れは激しいんでね。僕は肝焼きをつまみに酒を飲めればまあいいかな。数年前に浜松で食べた肝焼きは大きくて美味かったなあ。

 ユーチューブでは、外国人は皆うなぎが食べられるものだという認識がない。あんなにヌルヌルして臭いものという感じ。でも、日本では縄文時代から食べられている。やはり水の力と、こうした食材を調理する工夫、知恵がすごいんだろうね。

 それにしても、明石の海はすごいな。鯛、タコだけでなく、穴子もか。

 昔、震災から一年後くらい、神戸の人が僕に明石の鯛をご馳走したいと家に招いてくれたことがある。それは僕の知る鯛とは色が違って、薄い飴色。ハマチの色をちょっと薄くしたくらい。適度に寝かせており、旨味が増した極上の鯛だった。

 機会があれば、この海で獲れた穴子を狙い撃ちして食してみたい。たこ焼きは要らない。

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