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愛するものの匂い

 昔、ヒッチハイクでいろんなところに行っていたとき、名古屋を過ぎたあたりでで急に異様な匂いがした。トラックの運ちゃんにそれを言うと「ああ、四日市に入ったんだよ」と返され納得。当時、「四日市ぜんそく」、公害の町として超有名だったからね。それにしても、これほどとは、住民は毎日こんな匂いを嗅いでいるのかと同情した。

 でも、人間の嗅覚順応というのもなかなかすごいもので、匂い自体には慣れてしまうらしい。で、僕の場合も、しばらく車に揺られるうちにそんなに臭いとは思えなくなるから不思議だった。ただし、これは匂いがなくなったわけではなく、脳の働きによるものだ。つまり感覚機能から情報処理機能に至るところで順応が起きる。匂いがなくなったわけでもなく、ほんとうに感覚が麻痺するわけでもない。まあ便利と言えば便利。

 先日潮の匂いについて話したが、かつ自分にその機能ががなくなってから、嗅覚にかんする関心が高まっている。でも、昔の嗅覚の研究というのはかなりいい加減だったらしい。たぶん全5感の中で一番重要視されていないからだろう。嗅覚と味覚は、生物的な危機にさほど直結しないということか。とくに人間にとって。

 フロイトなどはまったく嗅覚を軽視していた。しかし、A・ギルバートという研究者は、何でも性の理論につなげるフロイトが匂いについて無関心なのは不合理だとし、重度のインフルエンザ感染、偏頭痛や鼻腔炎症状、鼻甲介の切除手術といったフロイトの病歴から見て、フロイト本人が嗅覚障害であったと推測している。自分が匂いを感じないのであれば、それに関心を持たないのもうなづける。

 確かに、ほかの感覚に比べて、嗅覚は生命に直結するものではないだろう。自分自身、これがなくなったからと言って、致命的な欠陥であるとは思えない。しかも、味覚に与える影響も少なかった。どうも一般には、嗅覚がなくなると味覚がなくなるとか、かなりマイナスの影響があると信じられている。

 まだ食べてはいないが、嗅覚障害になると松茸の料理はあまり美味とは感じられないらしい。なるほど、しかし、逆に言えば松茸は匂いだけに価値があり、味はそんなに大したものじゃないということになる。昔から「匂い松茸、味シメジ」と言われているのは正しいのだ。僕もそう思ってたし。天然のシメジ、そして天然のなめこのうまさに、松茸は遠く及ばない。

 しかし、まつたけがそうであるように、匂いはプラスアルファの部分には大いに寄与するものだろう。たとえばワインの香りとか。ヨーロッパ的には、ワインの香りは伝統的にさまざまな詩的表現によって説明されるが、ワイン新興地として名をはせたいと考えたカリフォルニアでは、科学的な研究をベースにしてワイン作りを行ってきた。80年代にそこで生まれたアロマホィールは、ワインのみならず、コーヒー、ウィスキー、紅茶など香りを重視する飲料の体系を成すものとなった。匂いも研究が盛ん、かつ科学的なものになってきたのは、このあたりを契機としているようだ。

 今の僕は匂いは識別できないが味のほうはわかる。リンゴジュースも飲み比べするとその違いが分かるし、自分の好みもあまり変わっていない気がする。つまり、辛いものが苦手になった以外は、そんなに味覚は変わっていない。喉頭全摘すると、熱いもの、辛いものが苦手になるのは一般的なことらしい。しかし、嗅覚がなくなると味覚がなくなるというのは明らかな間違いだ。その点は先のA・ギルバートでさえも思い違いをしているが、彼は医者ではないのでわからないのかもしれない。

 しかし、犬には及ばないとしても、人間の嗅覚というのもかなりのものだ。それはいろいろな実験(だいたい80年代以降)で確かめられている。たとえば、「ほかの子どもと比べて、自分の赤ちゃんのうんちは臭いか、臭くないか」では、多くの母親が自分の赤ちゃんの匂いを識別できた。「ほかの犬と自分の愛犬がくるまっていた毛布の匂いを飼い主は識別できるか」でも、飼い主の多くは愛犬の匂いを嗅ぎ分けていた。あるいは、マウスが交尾の相手を決める際に鍵となるメスのある匂いを、人間も嗅ぎ分けることができたとか。動物間の実験でも、チンパンジーの嗅覚は犬などと比べても遜色ない部分もあるらしく、このチンパンジーと人間にはさほどの差がないということである。

 つまり、生命としての危機に直結していないから軽視されがちな嗅覚ではあるが、フロイトが考えるように、それゆえに退化したというものではなさそうである。嗅覚の世界は実はなかなか面白い。

 さて、どの馬が勝つのか、その匂いがわかればいいが、まったくだ。先週は午前中から強い雨が降り、どうにもわからない馬場となってしまったな。言い訳むなしい。

今週はマイルチャンピオンシップ。アイドルホーズのソダシ登場。これも強いが、一番当てにできそうなのはシュネルマイスターだろう。3着以内なら。穴馬はエアロロノアとして、シュネルマイスターから、ソダシ、ジャスティンカフェ、サリオス、ソウルラッシュ、ダノンスコルピオン、セリフォスなどへ手広く3連複。

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