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この試合をあの人に捧げたい

 僕はあんまり上がったり,緊張するほうではない。先週から面接を再開、約2年のブランクがあったもののとくに緊張もしなかった。ひょっとして緊張するのかなあと思っていた自分自身の予想を裏切った。去年と今年の手術の前もまったくと言っていいほど緊張しなかったし。

 そんな僕が昨日の夕方あたりからソワソワとし始め、2時間前くらいからは明らかに緊張していた。これから始まる、日本サッカーの過去を振り返り、現在を知り、未来を占う一戦を前にかつてないほどの気分である。

あとから考えると、この緊張は脅えに似たものだ。ワクワクは20%くらい。何しろ相手はドイツだから。

 ところが、試合が始まってみると、最初の10分くらいには期待が高まった。「何だ、ドイツたいしたことないじゃん」と思ったのである。

 甘かったなあ、甘すぎる。ドイツはひじょうに慎重に試合を始めていただけだった。いきなりフルスロットルで来るヨーロッパのチームとしては珍しい。それを勘違いした僕は、その後恐怖のどん底に突き落とされまくる。幸運にもPKひとつで済んだが、内容的には0-3くらいだった。「何だ、前評判と違ってドイツ強いじゃん」となった。こりゃ勝てんわ、どうしたって。

 いちおうダメだったことを挙げると、第一にワントップの前田がチェイシングしないことだ。あのアメリカ戦では猟犬のようにボールを追い回していたのになあ。アメリカ戦では招集されるかどうかがかかっていたので必死だったが、本戦に出た前田はおそらく90分フル出場することに色気を持ってしまった。前田のくせに。前半だけでいいから、足がちぎれるほど走り回るという役割を忘れてしまったのだ。この前田と、残念ながらドイツ相手では相性が悪すぎる久保が足を引っ張っていた。

 それとフォーメーションそのものがまずかった。あの布陣では、伊東の後ろに広大なスペースが生まれてしまい、好き放題にそこに蹴り込まれた。伊東がもっと下がれよと思うのだが、そこまで下がると何のために伊東を起用しているのかが分からなくなる。だから後半に3バックにしたのは正解であるし、選手を大きく入れ替えたのも正解。とくに前田と違って浅野はがむしゃらに走った。

 後半の日本はまるで別のチームのようだったが、スペイン戦があるから、ここで負ければもはや希望は1ミリもないと分かっているので、みなが背水の陣的な心構えになったからである。攻撃的な選手ばかりを投入することも、あの監督としてはありえない戦法だが、もうそれしか選択肢がなかった。みなが森保の名采配と言っているが、それは違う。後のないパワープレーと同じ。それは試合後に鎌田が言っていることだ。「監督が攻撃的になってくれてよかった」と。当然、鎌田は分かっているのである。森保の基本戦術ではW杯では勝てないと。

 さて、個々の選手で言えば、堂安は若干「ごっつあんゴール」。それよりも、そこに至る三苫から南野へのパスが良かった。後半の攻勢は三苫が前に上がれるようになってから生まれたね。久保と違って、三苫がボールを持つと期待感が高まる。もっと試合に出して欲しいものだ。

 そしてMVPは文句なしに浅野。4年前は最終メンバーから落ちたが、その頃は下手だったからね。4年経ち、ヨーロッパでもまれて上手くなった。あの見事なトラップ。ベルカンプとまではいかないが、確かちょっと前の代表の試合でも同じプレーを見せていた。今ではわりと得意なプレーなんだろう。四日市あたりに、浅野の銅像を造ってやってはどうか。日本の場合、サウジのように「戦勝記念日」にはならんだろうが、それくらいの地方行政判断があってもいいんじゃないか。

 でほんとの勝因は、前半0-1で終えたことである。奇跡的に。

 ドイツは後半失速したが、どこかでこのまま1-0で試合を終わってしまえばいいという考えがあったと思われる。日本は全然怖くないもんな。このままあまり無理しないで,怪我もせずに、イエローももらわずに、スペイン戦に備えようと。それは強者である故のメンタリティというものだろう。油断と弱腰をもたらすかもしれない、切羽詰まっていないドイツと、実質的に後がない、背水の陣となった日本。このような両者のメンタリティを生み出したのは、そこにはいないスペインの存在である。その大いなる影である。スペインという存在が各チームのゲームプラン、選手の意識を左右する。この影の濃さは、勝っているチームと負けているチームとでは微妙に異なっていた。

 ともあれ、ネズミが猫を噛む(ジャイアントキリング)条件はいちおう揃ったわけである。

 ここで「いちおう」というのは、そんな条件が揃ったと言って、逆転できるほど世界のサッカーは甘くないからだ。ネズミはネズミでも噛む力が強くなければ猫に痛手は負わせられない。しかし、今やブンデスの名選手である鎌田、主将まで務める遠藤、プレミアで旋風を巻き起こしている三苫等々、今の日本にはそんなタレントがけっこう目白押し。2,3人しかいなかった過去とは違う。彼らが一丸となって、組織的な守備とアジリティで勝負すれば世界と互することも可能だ。それは前回大会のベルギー戦で証明していることである。しかし、あのときは逆転負け。今回は逆転勝ち。W杯で日本が逆転勝ちは初めてだという。気づかなかったけど。

 こういうのが本物の力である。番狂わせではあろうが、今のドイツであれば不可能ではなかった。

 とはいえ、僕としては引き分けで十分だと思っていたけどね。このグループで勝ち上がるためには1勝2分しかないだろうと思っていた。あのアメリカ戦を観てからは、だいぶ期待感が高まってたけど。まあ望外な喜びだなあ。今朝は、6時前に近くのコンビニに行って、スポーツ新聞全紙(六紙)を買ってしまった。

 

 そして、家を出てコンビニに着くほんの数十秒の中でふとこう思ったのである。

この試合をオシムさんにも観てもらいたかったなあ。

感謝。おかげさまで日本もここまで来ることができました。

 

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