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菅野所長のエッセイ:クィーンよりもプリンセス

 オリンピックでメダルを取るというのは、どんなものでも並大抵のものではないと思うが、それでもジャンプ葛西の銀メダルを思うと、他のものは霞んで見えてしまう。41歳、7回目の挑戦。しかも飛距離だけなら1番だった。

 普通こういうことは考えられない。ジャンプ界の「レジェンド」と言われるのもよくわかる。が、スタミナは問われない瞬発力勝負の競技であれば決して不可能ではないのだなとも思う。たとえば、スピードスケートやノルディックではちょっとありえない。

 その点、女子スノボパラレル、銀メダルの竹内智香がなかなかだ。30歳、3度目の挑戦。何と、自らスイス代表チームの練習に参加して5年間腕を磨いた。これも通常あり得ないことなので、スイスチームは何回も断ったらしいが、その熱心さにほだされ、最後には懐の深さを見せたということだろう。

 そういう情熱というのは人の心を動かすということだな。以前、ひどい就職氷河期の頃に、相談に来る学生に対して、無休でいいから使ってくれと言えば必ずどこかの会社は受け入れてくれると思うよと言った覚えがある。それでダメだと判断したら雇ってくれなくてもかまわないと。でも、そういうことをする学生はいない。でも、「どうしても」と思う気持ちがあればそうすればいいと思うのだが。
 昔、あれは28、9歳の頃だったかなあ、子ども相手の経験がなかった僕は、ある児童系の診療所に無給でいいから働かせてくれないかと申し込んだことがある。向こうは無給であることに恐縮していたが、こちらとしては金を払ってでも経験を積みたいと思っていたわけである。結局それも要らないというのに、交通費を支給してくれることになった。結局、入ってまもなく、何だかよくわからない大きな人事入れ替えがあって、僕も辞めることになったのだが。

 そして、女子フィギィア。予想通り、浅田真央はダメだった。このコラムでも昔から言っているように、やはり精神的に未発達な限り勝てない。勢いだけで勝てる子どものときと違うわけよね。フィギィアというのは、選手が子どもから大人になるプロセスをあからさまに見せる競技である。そこに大きくかかわるのはコーチ。彼らの最も重要な仕事は飛び抜けた才能のある子どもを大人にすることだ。

 19歳、しかし、見るからに幼さが抜けない感のある羽生が金を取った。彼のコーチはかつてキム・ヨナのコーチでもあったわけだが、この人は核心を十二分にわかっている人なのだろう。スケート以外に彼が選手に熱心に課すことは、慈善活動だと言う。ただ大人になれと言うだけで選手が大人になっていくわけではない。狂信的なステージママと一体化し、狭い世界にしか生きていない子どもたちに少しでも世の中というものを知ってもらうための教育という意味合いなのであろう。このコーチの差が、キム・ヨナと浅田との違いと言ってもいいかもしれない。

 そのあたりの教育ができていたら、浅田の才能からして決してキムに遅れは取らなかったと思う。けれども、もう18か19になった頃にも「真央はね」なんて言ってた時点で僕は永遠に一番にはなれないと確信していた。才能はかなりのものだけに残念なことである。あの才能に金を与えられなかったのは指導者の問題と言えるかな。ただし、今回、SPで失敗していなくても、銅止まりだったけどね。

 ひるがえって、スノボの竹内を迎え入れたスイスのコーチ陣は、最終的に彼女にこう伝える。「君は日本に戻って自分の応援者をつくり、その人たちから期待されるプレッシャーを背負うべきである」と。選手を大人にするということ、ほんとうに強い選手とはどういうものなのかを知り尽くしている指導者とはこういう人たちを指すのだろう。

 それにしても、キム・ヨナの演技は他とは次元が違うと僕は思ったが、結局、完成されすぎていて、芸術的な方向に傾きすぎたのかもしれない。それは大人に向けられた演技だった。この競技では、完璧な演技だからこそ、何となく物足りなさを感じてしまうということもあるわけで、氷上という、つねに危ういバランスの上に成り立っているものであることを不断に確認させる要素が必要なのかもしれない。
 昔、シンボリルドルフという馬がいて、皇帝と呼ばれ、5冠くらいとったのだが、いつも完璧なレースをしてしまうので「面白くない」と言われていたものだった。今回のキム・ヨナもそういう感じではないのか。完全無欠な王女のような。でもフィギィアの観客はたぶんプリンセスを求めているんだよね。

 とにもかくにも、大人と子どもという問題が強く印象に残った大会だった。

 さて、日曜日は冬のGⅠフェブラリーステークス。豪華メンバーが揃った。⑪ペルシャザールと⑮ホッコータルマエからの3連単。相手は①ゴールスキー、②ベストウォーリア、④ワンダーアキュート、⑦ニホンピロアワーズといったところか。競馬のほうが、採点が訳のわからないフィギィアよりも明確だ。

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