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菅野所長のエッセイ:ヤポネシア再考

今週は学会があるので今日まで。
先週に続いて体調、気力のほうはわりといい。この先2ヶ月分の原稿も書いてしまったくらいだ。でも、ダービーに続き、安田記念も負けた。上位に来た馬は買っていたのだがねえ。タイムは早かったが、しかしこれは馬場のせいで決してハイペースではなく、先行馬が残るレースだった。したがってアーモンドアイの3着もやむなし。
この1ヶ月、ひどい負け方である。次の予想は宝塚記念ね。
先々週に島尾敏雄の「ヤポネシア」について触れたのだが、そのすぐ後に国立博物館の研究チームが縄文人のゲノムの解析に成功というニュースがあった。それによると、日本人には約10%の縄文人の遺伝子があるとのこと。ただし、アイヌ、琉球人の場合にはその割合がずっと高くなる。結局、約3000年前に朝鮮半島を経由してきた渡来系(いわゆる弥生人)が、縄文人との戦い、共存を経て国家をつくっていったのはわかっていたことだが、昔はこういう研究がなかったから、いろんな論があった。そんな中で東南アジアから黒潮に乗ってたどり着いた民族もいるにはいただろうが、ことの中核としては、縄文人の遺伝子を強く受け継ぐアイヌ民族や琉球民族こそが、日本の先住民であろうことが重要なのだと思う。そして、そうした思いを込めて島尾敏雄が提唱した「ヤポネシア」という概念が、今回の研究チームの中にも生きていることを知り、僕は感慨を深くした。
明治の北海道を舞台にしたマンガ「ゴールデンカムイ」というは、このような視点をも取り込んだもので実に面白い。主人公の一人アシリパはアイヌの娘で、その数奇な運命の流れに元軍人の「不死身の杉元」も呑みこまれていく。雄大なスケールをもつ内容なのだが、作中で数々のアイヌ料理、アイヌの思想が織り込まれるのが楽しい。もちろんそれは近代以前、原始共産制の共同体的ありようであり、現代社会に生きるわれわれにとってあまり意味を持たないものなのだが、そうした失われた文化について無知であることには問題がありやなしやである。
かつて島尾敏雄のような思想がある程度の拡がりをもっていたころ、それは近代以前への回帰だとしてあまりかかわらなかった僕なのだが、今回のゲノム解析チームにあっては、これによって日本全体を再構成しようという射程が隠されているのではないかと思い、このような研究こそが、偏見と差別に満ちた今の閉塞状況に風穴を開けることができるかもしれないとひそかに思うのだった。

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