旅先のとある手打ち蕎麦、手打ち饂飩の店に寄った時のことである。
近くに行けば必ず行こうと決めている店なのだが、とにかく味は一品だと思う。
蕎麦の味が心を掴んで離さないのはもちろんだが、この店には独特の雰囲気がある。
座敷に座った目の高さから7~8メートルはあろうかという天井まで、法被(はっぴ)や赤青緑黄などカラフルに彩られた幟(のぼり)、獅子舞に使う獅子など、所狭しと地元の祭り道具が飾ってあるのだ。
店内は騒がしいほど独特な空気なのだが、店主は静かに食事をして欲しいようで、静かに食事できない人を歓迎しない張り紙が所々に読めることにギャップを感じる。
店内の物が変わることは殆どないが、何せ飾ってある物が多いので、行く度に新しい物を発見する。
こういうのもまた面白くて好きなのである。
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蕎麦をひとしきりすすり、食休みをしていると、入り口の近くに『春夏冬内中』と書かれた木の板が目に止まった。
季節も秋である。なのに、秋の文字が書かれていないのである。
何のことかと仲間と共に頭を傾げたが、忘れた頃に木の板を指差して一人が声を上げた。
「商い中(秋ない)か!」
秋がなくては旬の秋蕎麦が楽しめないが、店を開けてもらわなければそれもまた蕎麦も食えんと笑ったのであった。