傾聴技法 その5:冷静さを取り戻すための支援
傾聴技法
このコーナーでは、管理職の方が部下から相談を受けたり、ご家族やご友人と話し合ったりする際に有効な、傾聴技法を中心にした知識や実践上のポイントをご紹介します。
今回は、これまでご説明してきた傾聴技法を用いて部下や家族への支援を進めていく上で、まず、相手が冷静さを取り戻すための関わり方について説明します。
さまざまな事情により、程度の差こそあれ、人前で取り乱してしまうことは、誰にでも起こりうることだと思います。
今回は、そういった状態にある相手に、少しでも落ち着きと冷静さを取り戻してもらうことを優先する支援の仕方を紹介します。
Sさんは、同僚の些細な発言に対し、急に“うるさい!、もう、黙ってて!”と大声を上げて席を立ち、数十分後真っ赤に目を腫らして帰ってきました。そんなSさんを初めて見た上司のTさんは、すぐにSさんに声を掛けて、別室で話をすることになりました。
Tさん:「(穏やかな声で)さっきはどうしたの?」
Sさん:(泣きながら)「すみません・・・。ちょっと・・・」
Tさん:「うん」
Sさん:「最近急に感情的になってしまうんです。恥ずかしいんですけど、自分で抑えがきかなくなっちゃって・・・」
Tさん:「そうか」
Sさん:「(しばらく、沈黙)いずれ課長(Tさん)にはお話しなければ、と思っていたのですが・・・、私、先月からメンタルクリニックに通っておりまして・・・」
Tさん:「ああ、そうだったんだ」
Sさん:「お手洗いで泣いてきたので、今は落ち着いていますが、さっきみたいにちょっとしたことにも、イライラしてしまうんです」
Tさん:「そうか・・・、ちょっとしたことでもそうなっちゃうんだね」
Sさん:「はい、そうなんです(表情がやや穏やかになってくる)」
以下、省略。
Sさんの話に質問をしたり割り込んだりしないで、泣きながらぽつぽつと話すSさんに、Tさんが相槌を打ちながら話を落ち着いて聴くことを最優先していることがお分かりになると思います。 こういった場合、「どうしてあんな風に大声を上げたの?」、「あんなことする君ではなかったよね?」、「こういうことは以前からあったのかい?」、「クリニックでの治療はどのように進んでいますか?」などといった質問を性急に行うのではなく、Tさん自身が落ち着いて、Sさんの言葉や気持ちをそのまま受け止めていくことが大切です。 そうすることが、Sさんが取り乱してしまった状態を少しでも乗り越え、落ち着きを取り戻すための支援につながります。
日常生活のなかでこれらのポイントを確かめていただけましたら、幸いです。