ご予約専用フリーダイヤル
0120-556-240

覚醒の秘密

 年末になると思うのが、もう流行語大賞とかやめたほうがいいんじゃないの? ということ。今年は何だったけ? 知らない人も多いのではないか。さっき調べてみたら、高市首相の「働いて-」だった。ああ、そういえばそうだったような気もする。こういう無理矢理はやめて、せめて「該当なし」にしたほうがいいんじゃないのかな。

 「今年の漢字」いうのも同じようなものだが、こちらは一字にこだわるのが面白いと言えば面白い。で、今年は「熊」ですと。「米」と僅差の勝利。どちらにしても何か足りない感じではある。で、来年なのだが、僕としては是非とも予約したい漢字がある。

 それは「杯」だ。

 来年はW杯があるんでね。日本代表がベスト8あるいはベスト4以上の成績を残してくれたら異論もないだろう。でも、グループを勝ち抜けても、次戦が厳しそうなので淡い期待になってしまうかな。プレミアで活躍、最近好調だった鎌田が故障で長期離脱という明るくないニュースもあるし。でも、今の日本は人材豊富、鎌田の代わりになる選手もたくさんいる。三苫も怪我から復帰しているしね。

 そして冬季五輪もある。これがもう何というか、日本がすごい。とくにスノーボードかな。ハーフパイプは表彰台独占の可能性があるし、エアリアルも好調。スキーのフリースタイルは堀島がいて、ジャンプは男子が小林、女子が丸山が優勝候補だ。

 この女子ジャンプの丸山希がとりわけ興味深い。大注目だ。現在27歳。20歳くらいからW杯の世界遠征組に入って参戦しているのだが、たまにベスト10の下位に滑り込む程度の実力だった。そして、2021年に転倒事故で大けがを負い、北京五輪は絶望、そして約2年間リハビリ。高梨、伊藤に続く日本の3番手ではあったが、もはやここまでかなと思われた。

 しかし、復帰してからは、逆に上位に食い込むようになり、表彰台にも2回登った。そして今夏ドイツで行われたサマーグランプリシリーズで何と初優勝と総合優勝。27歳、若い選手が多い女子ジャンプではもはやベテラン、決して伸び盛りとも言えない年齢であるのに優勝するとはね。このニュースを知ったとき僕はちょっと驚いた。

 でも、所詮夏の大会であるからな、どの選手も調整程度にしか考えていないところでの優勝でしょと、高をくくっていた僕であった。しかし、冬のW杯本戦が始まってもっと驚くことになる。このシリーズは、冬季ミラノ五輪を間近に控えた重要な大会である。その開幕戦、丸山は、男子2名女子2名の混合団体で金メダルをとり、翌日の個人戦ではW杯初勝利。それもぶっちぎりの勝利だった。しかも、その勢いで開幕3連勝。まるで昔の高梨のような強さを見せつけた。その後さすがにその勢いにも衰えが見えはしたが、8戦して計4勝、2位が2回、3位が1回、4位が1回の堂々たる成績である。

 いやあ、これはどうなっているのだ? 以前はそんなに大した選手でもなかったのに、もう27歳で、大けがもして、そんな選手がどうしたらこんなふうに大化けするのだ? 

 やっぱり「大化け」と言うのがふさわしいよね。それは「覚醒」とも「開眼」とも言えるだろう。少なくとも、たとえば僕の業界ならこういうことはあり得る。実際、僕がそうだったと思うのだが、経験を積み重ねることによって、ある頃から分かってくるのである。だから、僕のような仕事の世界では、年齢を重ねることで実力がつくことが多い。でもスポーツの世界は違うでしょ。野球のピッチャーが「ピッチングのコツを掴んだ」と思っても、衰えで速い球が投げられなくなってはどうにもならんよね。

 で、いろいろと考えるのだが、その理由がよく分からない。推測するに、ケガをして、試合に出られなくなったときに、ひじょうに地道で考え抜かれたトレーニングをしていたのではないかと。それが今彼女の体幹をつくっているのではないか。よく分からんけど。僕も、あるときにひじょうに地道な面接のためのトレーニングをするようになったんだよね。そしたら、格段に良くなったんだよね。

 とにかくひとつ思ったのは、丸山のあり方は高梨沙羅と真逆だってことだ。高梨は15、6歳から世界のトップに君臨していたが、大学進学の頃から成績は下降。29歳の現在はベスト10に入るのが精一杯である。まあ、高梨の場合は、あまりにも特別な存在であるんだけど。ある意味、今でも世界のトップでやっているというのもすごいことだよな。

 でも、高梨に限らず、女子ジャンプの世界では10代で頭角を現し、20代中頃には衰えを見せるのが普通のことと思われる。そんな中で、丸山の活躍はやはり不思議な感じである。まあ、でもまず確かな推測だけど、頭がいいんだろうね。上質なインテリジェンスがある。「メンタル」の問題というのも、結局そこに行き着くと思うんだよね。

最初に戻る