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菅野所長のエッセイ:鬼神の優しさ

 女子サッカーは残念だったが、しかたないね。まあ、疲れていたとはいえ(アメリカがですよ)、よくやったほうである。勝つためには、スタメンから鮫島と坂口を外すしかないと僕は思っていたが、結局、層の薄さはいかんともしがたかった。そこが弱点と佐々木監督もさすがに分かってはいたのだろう。後半に入ってから、この二人を降ろした。交代がもっと早ければ、アメリカの2点目はなかっただろう。決勝に来るまでアメリカのほうが消耗していたのは明らかで、1-1の同点にさえすれば勝つチャンスもなくはなかったのだが。
 ちなみに僕の考えるウルトラC的な布陣は、坂口の代わりには当然田中。田中はうっかりしたプレーをときどきやっちゃうが、坂口よりもスピードは断然だし、ボールのさばきも軽くて速い。そして、鮫島の代わりにサイドバックとして川澄を入れる。川澄のもとのポジションには上尾野辺。これは世界レベルではもうひとつ期待できないが、しかし、川澄を後ろに置くことで左サイドは安心になる。
 何しろ、鮫島がボールを2秒以上持つか、10メートル以上のパスを出すと、7割方はアメリカ(フランスでも同じ)のボールになってしまうのだ。アジアレベルでは何とかなっても世界の上位と戦うレベルではない。これはしかし、本人の責任ではないわけで、起用する側が考えなきゃいけない。だから、坂口にしても同様、後半に入ってからの交代は遅きに失したということである。
 ま、しかし、DF熊谷と岩清水、そしてGK福元の奮闘のおかげと、対戦相手に恵まれたね。予選一位通過なら途中でアメリカに当たってアウトだし、そもそもドイツが出ていなかった。冷静に観て、現在の実力は世界で5番目くらいだな。ほとんどの選手がW杯から進歩していなかったのが痛い。レギュラークラスで伸びていたのは、熊谷、大儀見、田中。深刻なのは20代半ばからの選手たちである。これを考えると、日本では、澤のような選手は例外も例外であって、女子の場合は選手寿命ということをかなり念頭においてチーム作りをしていかなくてはならないのだなと思う。
今回は決勝まで進めたことで望外の喜びとしなければならない。終わってみれば、W杯の優勝でちやほやされた日本に対し、自国リーグが壊滅し、これの復興を願うアメリカ、この執念にもかなわなかった。
 
 今回のオリンピックは僕にとってかつてなく考え深くある。アーチェリーもそうだが、何と言っても女子レスリング48キロ級金メダルの小山日登美、31歳。最初「小山、WHO?」だったのだが、解説で旧姓坂本と聞き、忘れていた記憶がよみがえった。「えー、あの坂本! ほんとかよ!?」である。
 すでに知ってる人もいるだろうが、この坂本はもともと51キロ級の世界チャンピオンになること8回だっけ、6回だっけ? とにかく階級ダントツの選手だった。しかし、オリンピックには51キロ級は設定されていない。やるとすれば48キロ級か55キロ級である。しかし、48キロ級には実の妹がいた。妹とは戦いたくない彼女は55キロ級でオリンピックを目指す。しかししかし、そこに君臨するのは絶対王者の吉田沙保里である。結局坂本は二度とも吉田に敗れ、オリンピックに出ることなく無念の引退をしたのだった。 もちろん吉田は強い。しかし、上の階級に挑戦すること自体けっこう無謀なことだ。もとの体格が違うわけだから。なんで負けると分かっててやるかな、何で48キロのほうでやらないのかなと僕は思ったが、男には分からない、姉妹の絆っていうのがあるんだろうなとか、人並み以上に気持ちの優しい人なんだろうなとか考えるしかなかった。が、どう考えてももやもやする。この姉妹は何だかなあと。結局妹のほうはぱっとしないし、姉が出るべきでしょ、これはと思ってたわけである。
 引退後は妹のコーチなどをし、競技から離れて、体重が80キロ近くになってたこともあるらしい。そんなことをしているうちに、妹が結婚することになって選手を引退することになる。このときから、姉の挑戦が始まる。年齢的な衰えは当然だし、20キロ以上の減量しなければならなかったが、それを克服したわけだ。一度はオリンピックに出たいと。妹さえいなければそれが遠慮なくできると。何かやっぱりどこか常軌を逸してませんか?
 で、試合を観ると、これが強いのなんの。鬼神のよう。決勝で唯一、第一ピリオドを先取されたが、楽々と逆転の金メダル。何なの、この人。それまでの経緯を考えれば信じられない。ずっと出てれば軽く3連覇でしょ。
 と僕はその驚異の強さに浸っていたわけではない。準決勝が終わった頃には、この人がなぜ、金メダルを犠牲にしてまで、妹との対戦を避けてきたのかが分かった。もうこれは確信だね。本人は絶対に口に出すことはない理由だ。それは、自分が勝つのが分かっていたからである。圧倒的に勝ってしまうのが分かっていたからである。仮に、5分5分だったり、自分が負ける可能性があったならば、あるいはこの姉妹の対決は実現していたのかもしれなかった。
 決して知られることはないだろうこの姉の心情を思うと、僕の長年のモヤモヤもだいぶ解消された。しかし、長子というのはいろいろ疲れることを考えるものだ。次男や次女たちは脳天気にして、その心情を知らない。
 
さて、オリンピックもそろそろ終わり。早いものだ。残された僕の楽しみは閉会式のライブ演奏くらいだ。どんなステージになるんだろうか? エルトン・ジョンに始まり、当然ストーンズ、最後はアデルの登場!なんてところを期待しているんだけどね。
 ライブといえば、今夜は、音友に誘われてコットンクラブへ、オシビサを聴きに行くのである。懐かしい! 

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