今のところ大谷が投げないということなので、ちょっとがっかりなWBCである。しかも今回は一発勝負過ぎてアジア予選で足元をすくわれる可能性もあるかもね。無事渡米して、かつてない豪華な顔ぶれのドミニカそしてアメリカとの対戦を是非観てみたいものだが。
しかし、WBCの賞金はサッカーW杯の14分の1なんですと。やっぱり、いかにもマイナースポーツだよね。しかも、儲けの大半はアメリカメジャーリーグの年金基金に流れるわけで、何というか、箱根駅伝みたいなもんだ。そんな大会であるから、ここでアピールしたい選手はともかく、大谷とか山本にかんしては、本番までの調整として位置づけて欲しいと僕は思っている。
今回いちばん良いと思えるのは、応援ソングになっているあの「タッチ」をB’zの稲葉浩志が歌っていることだね。これは意表を突かれた。稲葉君は何やってもカッコいい。
さて、前回「信頼」ということについて簡単に触れたのだが、たぶん私たちの多くは「信頼」ということを言葉の上でしか理解していないのではないだろうか。りくりゅうペアの関係性というのは、そうした言葉上のことや概念を踏み抜いた先に構築されているものではないだろうか。
そして、それは構築というよりも「熟成」とか「「醸成」のほうが適切である。宮本武蔵が言うように、1000回の稽古を「鍛」とするならば、構築とはまだ「鍛」の段階であり、そのはるか先にある「練」の境地を表現するならば「熟成」のほうが適切であろう。実際りくりゅうペアは2019年に結成され、22年の北京五輪では7位だった。まさにこの頃は「構築」という段階にあったわけだが、この後ペアは驚異的な成長を遂げていく。すなわち「鍛」から「練」の段階へと移行していったと思われる。
そして今回、そうした境地に至った二人の関係性とは、何というか、理屈では収まらないもののような気がする。
昔、学生時代にアメリカでのある調査研究に興味を引かれたことがある。それはアメリカの大学の学生寮にかんする調査だ。地方から入学して同じ学生寮に住むことになった学生たち、その人間関係がどのような変化を見せるのか、それを調べたものだった。
ひとつは、友人づくりについて。学生たちは当初同じ階であるとか隣の部屋だとか、あるいは同郷であるとか、つまり物理的に近い者同士が仲良くなっていた。しかし、時間が経つに連れ、そうした物理的な距離を超えるようになり、趣味や興味が同じであるとか、考え方が似ている者同士が仲良くなっていった。要するに、友人として大事なことは、外面的なことよりも内面的なことであることにシフトしていったわけである。
この結果は誰にでも経験があることだろうし、理屈からも簡単に理解できる現象である。しかし、もう一つの調査結果はちょっとした驚きだった。それは女子学生にかんする現象なのだが、入寮当初彼女たちの生理期間は当然ながらバラバラだったのであるが、寮生活が始まり、その後に交流が広がりと深まりを重ねるに連れ、徐々にその期間が近接していったという現象である。そして確か一年も経過した頃には、ほとんどの女子学生の生理期間が重なっていたのである。
ひょっとしたら、同性ならば何となく合点がいくことなのかもしれないが、男の僕としては驚きを禁じ得なかったのである。ああ、あの頃、周囲の女の子に訊けば良かったなあ。
で、こういう関係性はなかなか理屈に収まらないものではないか。もちろんこの現象について、調査者たちは合理的に解説をしてもいた。たとえば、長く一緒に暮らしているうちに、生理用品の貸し借りとかがより効率的になっていくからとか、ほぼ進化論的な適合説だったと記憶している。なるほど、そういうこともあるのかもしれない。でもそういう理屈だけでは収まらないんじゃないかと、当時の僕は感じていたのだった。
でも、いまでも納得いくような説明はできないな。人と人との関係にはそういうこともあるんじゃねと、ダーウィンではなく、今西進化論のようなあいまいなことしか言えない。でも、そんな生理的なレベルまで一致していくとなると、それはかなり良い関係ができている証ではあるのかもしれない。
男女であるりくりゅうペアはそういうことは不可能だが、しかし、持ち物や行動、何でも一緒にすることで少しでも性の壁を越えようとしたのではないかと思われる。そして、どの程度なのかは分からないが、それは功を奏したようだ。
もとより生理はないが、たとえば、トイレに行くタイミングが一緒になっていくなどの、「生理」レベルの一致はあり得るのではないか。そうした一致化、同致化はこの二人の間でたくさん起こっていったに違いない。関係がそうしたレベルに及んでいくに連れ、それは演技にも大きな影響を及ぼし、ペアは徐々に「練」の境地に近づいていったのではないか。
昨日、女子サッカーのアジア大会初戦で谷川がゴールを上げた。間違いなく中盤の選手であるのだが、谷川の得点能力はけっこう異常なレベルにある。
W杯で優勝した頃のなでしこジャパンと今とを比べると、今のほうが、何というか、ところどころデコボコしている集団のように見える。あるいは、水と油が分離している溶液のようなね。それはチームの中でも飛び抜けた存在である谷川萌々子が十全に機能していないことに因がある。これが解消されれば、かつてのなでしこのような「練」の一端が観られるのではないか、分離している溶液が大阪のミックスジュースのような究極な混ざり具合となるのではないかと思うのである。ただし、中盤から攻撃面だけのことで、守備陣(とくにセンターバック)は完全に分離しているけどね。
それでも谷川がチームに溶け込んでいけばかなりやれる。加えて、センターバックがよくなれば再びの世界一を目指せる。
今週のコラムは予定と少し違ったのだが、来週はこれを大きなフリとした本題を語ろう。
