苦しいことが長く続いていると、これはいつまで続くのだろうか、これは終わることはないのだろうか、と思うことがある。このような人の思いに対して、いくつかの格言がある。
「明けない夜はない」
「止まない雨はない」
とかね。
で、今年からひとつ加えてはどうか。
「終わらない夏はない」
ここ数日、朝夕になるとちょっと寒いかなと思えるわけだが、ちょっと前までは、まさにこの暑さには終わりがないのではないかと思うくらいだったもんな。でもやっぱり、いつかは夏も終わり、秋が来るんだねえ。でも長かった。今年の猛暑は7月上旬から9月下旬までといったところか。
ちなみにこのスパンは、僕の左足首の捻挫の治癒期間とほとんど重なっている。当初、重症の捻挫は2ヶ月に及ぶとあった。まさかそこまではと思っていたが、ほんとだったね。今は9割方良くなった感じ。いまだに下りの階段はちょっと嫌なのだ。
先の格言だが、
「治らない捻挫はない」
というのも個人的に加えてみよう。
その秋めいてきた先週の土曜、世界陸上に行ってきた。1週前の初日、席の周辺には外国人が多かったのだが、この日はかなり少ない。毎日満員御礼状態の世界陸上にあって、最初に完売したのがこの日のナイトセッションなのである。その理由は明白で、この夜のメインイベントが女子やり投げ決勝だからだ。日本陸上界の大スター北口榛花が出るという、疑いようもない前提があり、日本人の多くがこの日のチケットを買い求め、外国人には行き渡らなかったというわけだ。
ところが好事魔多し。北口は6月にケガをし、出場は何とか間に合わせたのだが、本調子には遠く及ばず、予選敗退となった。
2万円のチケットは実質1万円以下かな。最終日前日のこの日は、種目構成がもうひとつで、10種競技や7種競技に時間が多く割かれた。というのも、観ていてよく分かったのだが、開催側も北口が出場するという大前提でプログラムを組み立てているのだ。たとえば、最初に行われたのが、女子7種競技なのだが、それもやり投げだけなのである。これを延々見せられる。もちろん本職ではないから、飛距離は40メートルから50メートルくらい。つまりこれは夜のゴールデンタイムに行われるやり投げの前座なのである。これらの大したことないやり投げを観た後に、専門選手たちのすごさを観てくださいということだったのだろう。なるほどね、演出としては悪くない。
そもそも女子やり投げが、最後のリレーのひとつ前に組まれることなど普通はありえない。それもこれもすべてはここに北口がいることが前提だった。しかし、大会側の目論見は大外れ、いちばん盛り上がったかもしれないこの夜は今回の世陸でいちばん地味な夜となってしまったな。だから、出足が悪かったもん。みんな北口が出ないと分かって意欲を削がれたんだろうね。多くの人は北口見たさだったのだろう。そういう「にわか」もけっこういたのだろうが、しかし、そんな人を集客するのだから北口はやはりスターである。
そもそも、多くの場合最初は「にわか」ファンから始まるものだ。あの織田裕二なんかも「にわか」もいいところで、僕みたいなものからしたらほんとに不快だったよね。もう愛する陸上が汚されているような感じというか。たぶん多くの陸上ファンはそうだったはずだ。でも、そんな「にわか」でも30年もやっていれば「にわか」じゃなくなるところもある。
今回感心したのは、どこかの負けてがっかりしている若い選手に対して「誰でも最初は無名だよね」「これからだよ」と言っているところだ。そして彼は告白するのである。「僕もボルトが初めて世界陸上に出てきたときのことを、まったく覚えていなかったんです」。
ああ、これが継続することの大きな財産なんだなと思った。ずっとやっていると良いことがあるよね。どうしようもないほど歌が下手なアイドルが、ステージを多く経験するうちにけっこう聴けるようになるというのがある。ああ、でもスマップは例外だ。いくらやっても下手だったなあ。
まあしかし、世界陸上の織田裕二を観るとちょっとそんな感じ。日本の選手に馴れ馴れしくタメ口きいたりするのはほんとに不快だけど。今回で辞めてくれるというのでホッとしたね。
次なるキャスターは誰になるのか? 今回の陸上人気は本物なのか? ちょっとだけ注目。
でも、3000障害の三浦龍司、110ハードルの村竹ラシッド、400メートルの中島祐気ジョセフ、メダルには届かずとも入賞を果たした彼らはみな23歳なんだよね。とくに、大会すべてを通じて僕にとっていちばん印象的だったのは、実は400メートルで準決勝進出を果たしたときの中島の笑顔だった。
陸上人気を本物にするには彼らのがんばりにかかっている。機会があれば応援に行きたい。