1週間前にはノーベル賞の複数受賞に少し湧いた。「少し」というのは受賞者に失礼なのだが、もう何十人目ともなると、さして珍しく感じないからである。日本ならそれくらいは当たり前だと。研究内容を知るとさらに畏敬の念は増すんだけどね。
僕は大学のことをよく知っているから言うのだが、優れた研究者がもっとも重んじるのは研究する環境であり、自身の待遇面とかではない。実は大学によってそういうのはずいぶん違うんだよね。たとえば、給料はすごくいいけど研究費や図書費などは少ない大学、給料は別に良くないが、研究費や図書費が充実している大学があるわけ。研究を最優先する人、学究肌の人は当然後者を選ぶ。ノーベル受賞者の出身大学を見ていると国立が圧倒的なのは、まさに国立と私立の違いが出ているということだ。そして私立同士の比較においても、こういう差は顕著にある。受験偏差値とはまた違う、言うならば”研究偏差値”。でも、そうした情報は受験者にも世間にも伝わることはない。
結局のところ、優れた研究者というのは目先のことよりもずっと先を見据えているということだよね。お隣の韓国が、日本と違って自国はなぜノーベル賞を獲れないのかと嘆くわけだが、韓国では優秀な人間は金儲けを求めて多くが医学部、それも美容整形に流れてしまうということである。半ばはジョークなのだろうが、本質的な指摘でとてもリアルである。風土の違いと言ってもいいが、要は国民性の違いだよね。中国も同じなんだけど。
ということで、ノーベル賞受賞で「日本はやっぱりすごい」となったわけだが、その1週後にはさらなるビッグな出来事。もう言わずもがなだが、ブラジルに勝ったのだ。こりゃとんでもないことだな。W杯でドイツ、スペインに勝ったことも超弩級の出来事だったわけだが、親善試合であってもブラジルに勝つというのはさらに意味があるのだ。ブラジルというのはサッカーの象徴だからね。
まさかこんな日が来るとは。生きてて良かった、と思った。
「三菱ダイヤモンドサッカー」の時代から日本サッカーを見続けてきた身としては、そう思うのも大げさじゃないんだよね。上田が見事なヘディングで3点目を決めたときなんか、涙があふれて画面が見えなくなったもんな。まだ試合が終わったわけじゃないし、自分でもビックリしたのだが。要はブラジル相手にここまでやってくれれば、結果はどうなろうがかまわないということなんだろうな。あるいはこれで勝ったとは思わなかったが、劣勢から逆転したという事実に感動したということか。自分に起きたことなのに、そんな推測しかできないが、まあいい。つまりは、あの瞬間、例えようもなく幸せだったのだから。感動はおさまらず、恥ずかしながらしばらく嗚咽してたなあ。
MVPをあえて挙げるとすれば伊東だろうな。久保との交代で入ってから2アシスト。中村のダイレクトボレーも見事だった。この構図はスタッドランスの試合で何回か見たね。中村も伊東のクロスの球筋をよく知っていたんだろう。瞬時ではあったが、周到に準備できていたシュートだった。決勝点の上田のヘディングもすごかったね。オランダリーグで現在得点王、絶好調だ。
で、このふたつのファインゴールを産み出したのが伊東のクロス。前から思っていたことだが、伊東のクロスというのは低くて速い、そしていちばんの特徴としては、日本選手にとってちょうど良い高さに上がるんだよね。他の選手のクロスはもっと高く上がってしまうので、多くは空中戦で負けてしまう。だいたいは外国選手のほうが背が高いからね。でも、伊東のは速くて低いから、相手DFの身長のアドバンテージが意味をなさなくなるのだ。昔からずっとあの高さ、あの速さだから、あれは天性のものなんだろう。すごい武器だ。ランスを出るときに何でビッグクラブが誘わなかったのか。たぶん年齢的に嫌われたんだろうが、まったく衰えはないと断言できるね。
もちろん殊勲甲は伊東だけではない。堂安が前よりもうまくなったし、鎌田が中盤をしっかりと抑えていたおかげで、佐野も中村もより自由に動けた。佐野海舟はパラグアイ戦での怪物ぶりは発揮できなかったが、課題が見つかった感じもして良かったのではないか。もちろん中村敬斗はよくやった。フランスの二部リーグでは無双状態だし、ビッグクラブのオファーがきっと来るよ。DF陣が怪我人だらけの中、A代表の新人、左センターバックの鈴木淳之介はまずまずよくやった。そしてGK鈴木彩艶がすばらしい。前半の2失点は防ぎようがなかったが、その後はよく守った。パスもキックも上手い。さすがパルマの守護神である。
でも手放しで喜んでばかりもいられないかな。今回の勝因はどこでも言われているようにFW陣のハイプレスにある。実はこれってW杯でのドイツ戦、スペイン戦と同じ流れなんだよね。あのときも前半負けてて、後半から死に物狂いのプレスに転じた。今回もそう。どういうことかというと、最初は自分たちは強いから、ブラジル相手でもゆったり構え、四つ相撲をして勝とうと思ってるわけ。でも、失点して後がなくなると、そんなことは言ってられない、リスクを冒してでもボールを取りに行こうとなる。それは戦略とは言えないでしょ。
僕が何度も言っているように、日本はまだサッカーの本当の強豪ではない。FIFAランク15位から20位の間のチームだ。強豪相手に善戦はできるけど、勝ちきるには至らないレベルなのである。だから、強いチームと当たったときには弱者の戦略をとる必要がある。ただしそれは、守りに守って負けないことを目指すのではなく、勝つための戦略だ。その上で最も重要なことは「走る」こと、「走り勝つ」ことである。オシムさんがしつこく求めたことだよね。そのオシムのイズムが継承され、W杯では前田がよく走ってくれた。今回も南野や堂安がよくやった。
でも、どちらも後がなくなって、もはやこうやるしかないと監督も選手も思ったからできたんだよね。尻に火がついて初めて、自分たちのやることを自覚している感じ。もちろん頭ではわかっているのだろうが、ほんとに追い込まれないとできない。これが試合の最初からできるようにならないとなあ。今回は親善試合で、ブラジルはGKとDFの二人が国内リーグの選手だった。戦前、ブラジル国内でも、この起用はとても不安視されていたのだ。
でも、W杯本番で同じような展開になったとしたら、DFはずっと屈強で上手くなる。びったり蓋を閉じられて、2-0で終わっちゃうよね。
W杯のときもそうだが、勝ったのは森保の采配ってわけじゃないよね。だって試合の締めに望月ヘンリーを投入するなんてのは、ブラジル相手には自殺行為に等しいでしょ。ブラジルでさえ国内リーグの選手はだいぶ落ちるんだから、日本は言うまでもない。もちろん僕は望月の将来性を疑うものではないけど、海外で2年くらい揉まれないとこのレベルで戦うのは無理だよね。”アジア”の森保はあいかわらずそういうところが分かってない。まずは長友を切るところからしないと到底信用できないな。
まあしかし、とにもかくにもブラジルに勝ったことは大きい。積年の宿題がやっと解けたというかね。来年に向けて、選手たちの自信になれば万々歳である。
さて、サッカーでなくアメリカバスケットでの生ける伝説レブロン・ジェームスが「坐骨神経痛」で試合欠場とあった。それにより八村塁の役割が重大になるというのはおまけのことで、いくらベテランでもレブロンの年齢で坐骨神経痛とはね。復帰は11月の中旬とあり、なかなか重いようだ。レブロンよ、さぞかし辛かろうなあ。坐骨神経痛の痛みと苦しみは独特だからなあ。同病者じゃないと分からないもんな、あれは。僕の場合「体調が悪い」というのは坐骨神経痛の影響が多い。チクチク痛んで眠れなくなるからだ。実は今週の火曜がそうだった。
平日の病院に行けるタイミングで発症するのならいいんだけど、神経痛はこちらの都合に合わせてくれない。それに病院に行っても、1錠か2錠しかもらえない薬なんだよね。魔法のように効くのだが、それだけ危険もある薬なんだろう。だから、ひょっとしてアメリカでもこういう薬には規制が強くはたらくのかもしれないと思った。スポーツ選手なら尚更かも。そういうことで復帰するのも大変なんじゃないかと。
これからレブロンを観たときには、同病ということで、これまでとは違う眼でみてしまうんだろうなあ。
