運がいいと言っていいのかどうか、台風の影響で関東東海に大雨が降ったとき、僕はかねてからの予定で友人と北海道に行っていたのだ。しかも、台風が東京に来る数時間前に羽田を発ち、その夜遅くには台風が北海道に到着、しかし、あっという間にオホーツク海を抜け、翌朝にはまずまずの快晴になった。だけど、いちばん楽しみにしていた羅臼沖のクルーズはできなかった。まあ、やっぱり強運なのかもしれないが。
それにしても船には縁がない。3月に五島列島に行ったときも、九州に雪や雹が降るという天候不順のために、キリシタン遺構めぐりができなかった。今回は、知床に行ってホエールウオッチングをするはずだったが、台風のために前日には業者から中止の知らせが入っていた。個人的には、知床に行くのはこれで3回目、一回だけ知床のウトロ港から観光船に乗ったことはあるが、太平洋側の羅臼港からだと、シャチやクジラが観られるチャンスが多いのである。
羅臼沖は世界でシャチが多くやってくる海域として有名だ。シャチは家族単位で移動するのだが、この羅臼には、世界からたくさんの家族が集まってくるらしい。そして、ここで集団見合いをしているんじゃないかと推測されている。
というわけで、これをとても楽しみにしていたのだが、どうも船の予約はリスキーである。飛行機を使う場合には台風のリスクを避けて旅程を決めているけど、今回はその甲斐もなかったな。
しかし、羅臼には展望台があると知った。前に羅臼に行ったときには何で気づかなかったのだろうか。ここからは眼下に羅臼港と太平洋を見渡せるが、その先には国後島が見える。加藤登紀子『知床旅情』にもあるように、「飲んで騒いで丘に登れば はるか国後に白夜は明ける」とあるように、本来なら日本の領土であるのだからこんなにも近いのだ。と、そんな不条理に対して二人でブツブツ言い合うのだが、ロシアとかヨーロッパの列強とは違い、日本は結局、他国のどこも奪えなかった国である。第二次大戦はもちろん、日清戦争のときも、ヨーロッパの圧力に負けてしまった。で、彼らは上海や香港を奪っていった。日本はアメリカと同じで占領や植民地化するノウハウを持っていないんだよね。だから、一部を除いて、かつて占領されていた国から感謝されるのである。
で、台風一過、知床峠での羅臼岳の偉容は変わらずだし、ウトロでたべた海鮮丼、中でもホタテが美味かったなあ。網走の飲み屋で食べたホタテのバター焼きも美味かったのだが、このあたりはみな網走で獲れるものらしい。そりゃ美味いわけだよね。道東は豊かだ。人は少ないけど。車で走れば、本州とは規格の違う畑が延々と続く。黄色い小麦畑、白い花が咲くソバ畑、あとは濃緑のニンジンや大根だ、トウモロコシはもっと道央だね。この辺にはない。
北海道というものをより強く感じたければ、道東の広い畑の中を走り、知床や羅臼へ赴くことだ。これぞ北海道である。もちろん、道央も函館もいいんだけどね。
さて、ソバの花をたくさん見るので、これはソバ畑だと気づいたわけだが、その生産量は日本一ということだ。やっぱりね。あとは、小麦、タマネギとか大根、大豆もそうだよね。日本人の胃袋を満たしているのは北海道だ。
ということで思い出したが、先日「下仁田納豆」というのをスーパーで見つけた。他の納豆と違い、経木に包まれていて、差別化が図られている感じである。値段も高い。
ここでも紹介したように、下仁田には一人で実地検証に行っている僕である。でも「納豆」は知らなかったぞ。「ネギとコンニャク」だけではないのか? で、調べてみると、下仁田にある納豆の店が潰れかかってしまったときに、有名な豆腐屋に指導を請うたらしい。そしてその教えを取り入れて美味い納豆をつくることに成功、今に至るということだ。で、買って食べてみると、確かに美味い。他の納豆とはひと味違うのである。
しかし、後で分かったのだが、この納豆で使う大豆は北海道産なんですと。えー、何というか、下仁田の土壌は特別であるからと、それを確認しにわざわざ出かけた僕としては、肩透かしを食らったというか、軽い詐欺に遭った気分になった。確かに美味いとは思うけど、下仁田の畑で獲れた大豆で作ったんじゃないの? 北海道の大豆なの? それを「下仁田納豆」と名乗るのはどうなの?
でもそうか。「東京ばな奈」と言っても東京産のバナナじゃないもんな。東京どころか、国産でもなく、フィリピンや台湾やエクアドル産だよな。だからといって名称にいちゃもんをつけるのは大人げないもんな。
ということで、「下仁田納豆」にもう文句は言うまい。でも、何というかやはり納得はしていないので、その後は買い控えているのである。ちなみに「東京ばな奈」も買ったことはない。