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菅野所長のエッセイ:失ってわかる

2月は本当に地味な毎日を送ることになって、なんだかウツウツとした気分である。面白いことも楽しいこともまるでないなあ。まあこの季節はしかたないかと、3月からに期待しよう。
先週は今年最初のGⅠフェブラリーステークスがあり、藤田菜々子騎手が騎乗するので話題になった。女性騎手がGⅠに乗るのは初めて。最後方から5着に突っ込んできたのだから大したものである。かつては女性騎手が次々と出て、これからは外国並みになるのではないかと思ったが、みな冴えない成績で引退していった。そうした歴史の中で久々の女性騎手が誕生しただけでなく、50勝をあげる活躍である。
しかし、JRAと違って、地方競馬のほうでは女性騎手が何人かいてそこそこ活躍している。その中でもすごいのが宮下瞳。この人は、結婚して引退したのだが、その後、騎手の身体をつくるトレーニングをし、失っていた騎手免許を取り戻し、また騎手をやっている。子どもはまだ小さいが、子育ても家事もやりながらである。
騎手の生活はハードだ。平日は朝の調教があるため、2時とか3時に起きて厩舎に行き、馬の稽古をつける。早朝に家に戻り、子どもの世話をあれこれし、学校に行かせた後にまた仕事に戻る。
地方競馬は中央よりもレース数、開催数が圧倒的に多いから、それだけでも大変なのに、本人はそれをあまり苦とも思わずこなしているのだ。ほんとにすごいものだな。現役の騎手でいることの喜びは彼女にとって替えがたいものなのだろう。

サッカー漫画「ジャイアントキリング」を読み返してみていちばん感動するのは、達海監督が現役復帰を目指すといって、選手とミニゲームを行うくだりだ。かつてETUの星と呼ばれ、日本代表の司令塔になるはずだった彼は、膝の故障で若くして引退を余儀なくされた身である。そのゲームでも、一瞬の輝きを見せるものの古傷の痛みから思うようにはできず、彼は復帰は無理と悟り、選手たちに語る。10年ぶりにプレーして楽しかったこと、自分はこれに勝る喜びをいまだ知らないと。
辞めた者でないと、失った者でないとわからないものがある。人生は何ごともあのときにこうしていればと悔やむことばかりだ。幸い僕にはそういうものがほとんどないが、いつも現状で満足しきれないものがあるからかもしれない。
けれども、先日休刊となる『児童心理』の最終号が贈られてきて、自分の稿を見て思ったのだ。自分好みの論考、僕の好きなフーコー的なテイストを盛り込んだ論考を書けるところはもうないのだなあという淋しい思いである。よくもまあ、こんな異端なものを掲載してくれていたなあと感謝。
思えば、学会向けでもなく、一般向けでもないような純粋な考察をしているときがいちばん楽しく、それが、面接することだけではない、自分が現役であることの証なのだった。僕の場合。自分の本質というようなものもあそこにあるんじゃないかと思えるし。

今は何だか気分が上がらないことや、今後どうしていこうかという思いの根本にはこの問題があるのだな。なかなか難しいね。ま、今すぐどうこうということではないから、のんびり考えるしかないが。

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