ご予約専用フリーダイヤル
0120-556-240

藪に火をつける

 兵庫県知事選が、当初の予想から大外れ、元知事の圧勝だった。アメリカでトランプが圧勝したように、何となくそういう予感もしていたのだがね。

 世間ではSNSが既成メディアを打ち破ったとも言われている。まあ、そういう2項対立にすると分かりやすいのであるが、僕の印象を言えば、これは立花孝志という、良くいえば希代のトリックスターの勝利であるような気がする。僕は好きでも何でもないし、むしろ嫌悪感を持って見てきたんだがね。でも、今回の件については、いろいろ難点はあるとは思うが、この人物の”功績”を認めないわけにはいかないのではないだろうか。

 以前、群馬は草津町長の濡れ衣疑惑があってから、こういう出来事の判断は慎重にしなきゃと思っているので、今回のことについても性急な結論は出さないでいた。時折あそこの知事はとんでもないなという声を聞くこともあったけど、うーん、かなり怪しいけど、結論を見るまではなんとも言えないところがあるんじゃないか、と、以前の僕からしたら相当慎重な構えでいたわけである。

 僕が一番怪しいと思ったのは、県局長の訴えに対して「内部調査」で棄却し、罰した点である。ここで第三者委員会でも立ち上げていれば公正だと思うのだが、訴えられた当事者たちが裁定するという、組織ではよくある悪の手法が用いられた。会社の人事科内にある窓口でパワハラを訴えても、無いことにされるやつと同じでね。だから、このときに、外部も登用した委員会を開いていれば、僕は知事側に立ったかもしれない。

 一方、訴えた側もおかしい。県だけでなく、同時にメディアにも情報を流している。最後の手段としてメディアに訴えるというのなら分かるんだけどね。ちょっと卑怯なやり口というか、だから、これはどっちもどっちかなあという印象を持った。何しろ、局長なんだからかなりの権力は持っているわけだし。

 その後、その局長が自殺をしたことで騒ぎはさらに大きくなるのだが、僕としては、正直、この自殺は「何で?」という感じがして、すんなりとは理解できなかったね。たとえば、力のない平職員が訴えを潰されて絶望し、自殺するというようなことではないしね。でも、マスコミにとっては絶好の好餌ではあった。で、世間的なイメージは知事が悪いということが大半となり、選挙において、これを覆すことはもはや不可能と思われた。

 ひとつの事件を巡っては、そこにかかわった者によって語られることが異なる。誰の言うことが本当なのか分からない。芥川「藪の中」はそれを描いたものであるが、今回立花孝志は、この騒動を覆う藪に火をつけ、かなりの部分を焼き払ったのではないか、と思える。結果、元知事の圧勝劇となるわけだが、これについては僕はかなり納得している。つまり、当然の結果かなあと思うのである。

 もっとも、ああいう出馬の仕方というのはアリなのかという疑問もあるのだがね。たとえば、自分を味方する候補を無所属でたくさん立てて、各所で応援演説させるとか、選挙違反にならないのか? ならないとすれば、100人くらい立ててもいいのか? ああ、でも仮に違反になるとしても、あれはあの人たちが勝手にやったと主張すれば本人は違反とはならないわけか。それで言えば、今回、立花は問われても齋藤は問われないということになる。結局完全勝利というわけかなあ。

 でも、「SNSの勝利」というのはどうなのか? 僕はマスメディアも信用していないのだが、SNSをそれ以上に信用しているわけではない。結局は個人のリテラシーの問題であって、どちらの情報も怪しいものは怪しい。疑ってかかるのが正しいと思うのである。

 時代はSNS、ニュース情報よりもユーチューブみたいな空気があるけど、それってけっこう危うい。中国や韓国は日本以上にSNSが普及している国だが、だからこそ情報が限られてしまうということがある。昔、中国での調査で、SNSを多用する人とそうでない人とを比べると、SNS利用者はそうでない人に比べて、情報が偏っているという事実が明らかになった。たとえば、SNS利用者では、中国が昔日本からODA支援を受けていたという事実を知らない人が多くいることが確認されている。

 たとえば新聞などではあまり関心のない情報までも目を通すことになるが、SNSでは関心のある情報ばかりを集める傾向が高いのである。それをもってわれわれは便利なツールと思うわけだが、実は自ら情報を限定し、その限定された情報、あるいは偏狭な知識の中でものごとを考えていくことになってしまうわけである。スマホの普及によってそれは益々加速されていっているんだろうなあ。

 だから何事も疑えと。自分の眼で判断しろと。でも、その自分の眼を鍛えろと。もしも目の前に中学生とか高校生がいたらそういう説教しそうだなあ、ああ嫌だ、嫌だ。

 そうそう。自分の眼で見て確かめるというのは、大事だし、いいね。前回山口の話をしたが、言い忘れたのが念願の周防大島に行ったこと。「日本のハワイ」なんてうたい文句なのだが、このハワイは岩国からⅠ時間もあれば行ける、とても風景明媚でいいところだ。お目当ての店が休みで、海沿いのテラスで食事するというプランが潰えたのは残念だったが。

 それから、元乃隅神社に行くときに長門市を通ったのだが、ここは詩人金子みすゞの生誕地だったのだ。街中で「金子みすゞ記念館」の案内板を見て思いだした。ああ、そんな大事なことを忘れていたと後悔。金子みすゞの詩は、本の中にも引用しているくらいなのにね。時間の都合で行けなかったのが少し悔やまれる。

 もともと観光趣味がないのに、最近ではいろんなところに行くのは、去年京都の伊根に行ったのが大きいね。あんなにいいところだとは思わなかったんだよね。今は内緒だが、来年、まずはあそこに行ってみたいと思ってるのだが。 

 行ってみないと分からない、やってみないと分からない、ほとんどはそういうことだな。SNSの世界に閉じこもっていてはいけないよね。

最初に戻る