ひょっとしたら知らない人もいるかもしれないので、いちおう言うけど、JRは、昔「日本国有鉄道」という名称で、略して「国鉄」と呼ばれていた。つまり国営企業だったのである。当時はプロ野球球団「国鉄スワローズ」も保有していた。それが民営化されることとなった。同時に、このスワローズの保有権も売却され、「産経アトムズ」を経て、後に現在の「ヤクルトスワローズ」となっている。
このことは、ある程度の年代ならば誰でも知っているだろう。しかし、「JR」と呼ばれる前、「国鉄」から「JR」になる前に、また違う名称があったことは知っているだろうか? あるいは覚えておいでだろうか? これはもう皆が忘れているかもしれない。
はい、制限時間が過ぎたので正解を発表します。
答えは「E電」でした。
これにはみな脱力しますね。当時、国鉄が民営化されることになり、新たな名称を公募した中からこの「E電」が選ばれたのだった。しかし、あまりにセンスが悪いので、ほとんどの人が今で言えば「既読スルー」。誰もこの言葉を口にしようとしなかったのである。そうしているうちに、あまりの評判の悪さに気づいたのか、いつのまにか「JR」に改められ、皆がホッとしたのだった。すべての駅に掲げられた「E電」のロゴ、看板はすべて「JR」に変更された。
そもそも「JR」は公募した中でも最上位のほうにあったらしいのだが、なぜ20位くらいの「E電」が選ばれたのかは謎のままである。しかし、東京五輪のロゴとかの公募などでもあったように、何らかの利権やしがらみがあったのかもしれない。
鉄道においては、昔は民鉄のほうが国鉄よりも事故やトラブルが少なかったようだ。国鉄はまさに「親方日の丸」を地で行っているような会社であったから、体質的に相当ダメダメで、当然サービス感覚も希薄だった。それが民営化により、社員、職員の態度がひじょうに良くなったと言われている。郵便局もそうだよね。
先週、「みどりの窓口」を増やしたほうがいいと僕は言ったのだが、その理由は窓口社員の負担が大きすぎると思うからである。僕に言わせれば、JRの社員たちの働きぶりには文句のつけようがなく、それが世界屈指の鉄道事業を支えているのである。
僕の調べでは、1964年開業以来、新幹線の車両の故障による事故(脱線)は一回だけ。それ以外の脱線は2回あるが、いずれも大地震によるものである。世界の高速鉄道の中でも、新幹線の安全性は「神話」でなく「実話」なのである。時間の正確性も飛び抜けている。一度走行中に、たまたま車両中央にもある運転席のメーターを見ていたら、名古屋駅到着時刻にゼロの単位で停車したのを見たことがある。びっくりしたが、たぶんあれが普通なのだろう。
と、JR賛美が続くが、先日JR貨物では車軸の安全性にかんしてデータをねつ造するという不正が発覚。国交省がガサ入れに入った。JRは全国7000両の貨物を運行停止とした。
と聞くと、JRよ、お前もかと言いたくなるのだが、この事例はちょっと違うぞ。なぜなら、この不正を見つけたのはJRの内部調査であるからだ。そしてそれを公表。それで直ちに国交省のガサ入れとなった。貨物の運行停止も自ら行った。つまり、JRは病巣を自ら暴いたのだ。そして城門を開き、敵(国交省)を招き入れたのである。そして相当の損害を覚悟して、全車両を運行停止とした。
おそらくは内部告発があったのだろうが、それを抑圧も隠蔽もせずに、つまびらかにした。どこかの県庁とは違いますね。
「JR貨物」は、民営化とともにグループ会社として独立した会社なのだが、僕の推測では、もっとも国鉄臭が抜けない旧い体質をもった会社ではないのかと思う。本社筋では改革がどんどん進み、つねに新たな挑戦をしていく中で、どこか取り残されたイメージがある。まあ、それは推測なので何とも言えないけど。
とにかく、このような不正が発覚したことは残念なことではあるが、言うならばどのような企業、組織であっても、間違いや失敗は起こるものだ。重要なことはそれに対してどう対処するか、そこが問われるのである。失敗をしないように努めることはもちろん大事だが、その失敗をどう処理するか、その失敗から何かを学び、また新たなものを構築するか、いつもそれが問われているのであり、組織のダイナミズムが失われないために必須なことなのである。僕に言わせれば、今回の不正発覚は残念なことではあるが、しかしJRの評判も組織も更に良くなるのではないかと思う。
うーん、電力会社も真の意味で民営化しないといけないよなあ。