サッカーほどには熱心になれないのだが、大谷が頑張っているワールドシリーズにはいちおう注目している。が、目が離せないという感じではない。まあ、どっちが勝ってもいいかな。それよりはU-17サッカー女子日本代表、通称リトルなでしこが、W杯準々決勝でイングランドにPK負けしたことのほうに気をもんでいる。
ただ、山本にかんしては名誉挽回のために好投して欲しいと思うね。大谷は左肩を故障してしまって、打席に入っても打てる感じがないね。大谷が健在ならシリーズはもう決まっていたのではないか。
ところで、ドジャース対ヤンキースで僕が最も気になったのは、第4戦でのファールフライ事件だ。
ヤンキースの攻撃でライトのファールスタンド近辺に打球が上がった。難しいフライだが、ライトのムーキー・ベッツがスタンドにまで手を伸ばして捕った、と思ったら、そこにいたヤンキースファンがベッツの左腕とグラブをつかみ、捕球の邪魔をしたのだ。邪魔なんてもんじゃない、グラブの中のボールを掻き出そうとした。その拍子にボールはグラブからこぼれてフィールド内に落ちたのだが、あまりにもあからさまな妨害行為なので、審判はすぐにアウトを宣告。それは当然なのだが、あまりにも悪辣な行為だったので、呆れ、驚いた。ヤンキースのユニを着たそいつらは笑っていたからね。
映像を見返すと、ほんとに危険きわまりない行為で、下手するとドジャースの英雄ムーキー・ベッツの左腕が折れてもおかしくないように思える。こいつら即退場だと思うのだが、それについては翌日、知った。妨害行為をした2人はあとで警備員が来て退場させられたと。しかし、さらに驚いたのは、第5戦は入場禁止にするという裁定である。えー、永久出禁になってもおかしくないでしょ。それが1戦分だけ入場禁止で済ますとはいったいどういう料簡なのかと。さらにさらに、ある情報では退場はその日だけで「第5戦は来てもいいと言われた」というのもある。もうほんとにそんなバカなと思うのだが、ニューヨーク・ポスト紙もこの二人を「熱心さのあらわれ」として擁護する記事を掲載しているのである。いったいどうなっているのだ?
当の本人たちも名前も明らかにされているのだが、悪いことをしたなどとほとんど思っていないのである。自分たちはあのエリアのパトロールをしているのであるから、あそこを守るのは当然なのだと、戦争で人を殺すのは悪くないというのとほぼ同じ理屈のようである。
これはちょっとあまりに考え方が違うぞと、愕然とするね。無論ドジャースファンはものすごく怒っているのだが、本拠地で同じようなことが起これば、やはりファンをかばうのかもしれない。ただ、ドジャースは多国籍だからね。多少白人至上的なヤンキースとは違うかも。ま、とにかく、この出来事でますます僕の関心は薄れたかな。ほんとに嫌なものを見たという感じ。
でもいろいろと考える。もしもベッツが骨折でもしたとしたら、結論はどうなったのか? 軽い処分で済ますのか、メディアはなおも擁護するのか? たぶんそうなると話は違ってくるのではないかと思うのだが。つまり、彼らが自分の行為を正当化できるのは、ちゃんとアウトになったし、ベッツも怪我をしなかったという事実があるからだと思う。ただし妨害行為は間違いないので、退場はしますと。罪はそれだけでしょと。それに見合うだけの罰も受けたでしょと。
ところが、ベッツが怪我でもしたら、ただの妨害行為ではなくなる。車で言えば、駐車違反から人身事故になったようなものだ。たぶんそうなって初めて彼らは自分たちが悪いことをしたと自覚するのかもしれない。勝つためには何をしてもいいけど、怪我とかさせちゃうのはちょっとマズいかなという感覚か。
ここで、思い起こすのがルース・ベネディクトの「菊と刀」である。日本との開戦前、アメリカ政府は日本人の精神性を知るために人類学者ベネディクトに調査研究を依頼した。ベネディクトは一度も日本に来たことはなく、文献研究だけで「菊と刀」という日本人論を書き上げたのである。
「菊と刀」の白眉は、アメリカ人は罪の文化、日本人は恥の文化、ということを看破した点であろう。ヤンキースファンのあの行為は絶対に許せない行為だとみなす日本人はひじょうに多い。それは日本人の多くが、あれは「恥ずべき行為」と認識しているからである。もちろん、アメリカ人であってもそう思う人はいるが、しかし、日本人と比べればまったく少ないのであろう。日本人であれば、ヤンキースファンであっても、あるいはファンであるからこそそうした行為を許さないのである。
こうした感覚がルールやマナーに及ぼす影響はひじょうに大きいはずである。外国人が日本に来てその秩序正しさに驚くわけだが、そうした日本人のマナーやルールは、もはや内発的な動機として着床している「恥の文化」に支えられているわけで、これを真似ることはとてつもなく困難なことなのだ。「恥の文化」だから良くないっていうのは昔から言われてることだけど、いいやそんなことはないよと僕は言いたいのである。
だって、あいつら恥知らずじゃん。最高にカッコ悪い奴らだよね。