菅野所長のエッセイ:コンピューターは将棋の夢を見るか

 昨日は東京に初雪、今日も負けず劣らず寒い。今年の冬はひじょうに冬らしい冬だ。おまけに勝負に負け続ける僕の経済状態も厳冬、酷寒である。もうどうにもならない感じ。こういう気候のときには、やはりひたすら縮こまって寒波が過ぎるのを待つしかないのが鉄則だろうが、そこがね、どうも、いやはや何とも、頭が悪いもんで、分かっちゃいるけどやめられないの典型だなこりゃ。

 仕事も面接以外に何だかたくさんある。原稿はまあ、1か月後の締め切りだから3,4本何とかなるとは思っているのだが、講演録を仕上げるのがどうも大変である。何でも録音をPCに入れたのはいいが、データが途中で破損したらしい。で、途中からは自分の言ったことを思い出しながら書かなければならないのだ。それがどうなるのかまだ見当がつかないもんで。

 そういえば、先週の末から頭痛がひどくて、いつものように頭痛薬を飲んでも3時間後にはまた痛くなった。そういうことはまずないことなので、普通の頭痛ではないのではないかとけっこう心配になった。で、薬による治療はあきらめ、肩や首のあたりを点検すると、かつてないほど異様に首筋が凝っている。ああ、きっとこれだなと思って入念に指圧とマッサージをするとかなりよくなった。ただし、自分で自分の首筋をやるのはとても疲れる。うちにはマッサージチェアがあるが、その辺にはうまく当たらないからしかたないのだが。今度首筋専門のマッサージ器を買わねばなるまい。それにしても、去年からの背中、肩のバリバリはまだまだ終わらないなあ。たぶん2月が終われば軽くなるんだろうが。

 しかし、忙中閑ありというか楽ありというか、NHKBSで放送された、コンピューター将棋ソフト”ボナンザ”VS渡辺竜王の対決というのは面白かった。もう下手な映画とかドラマよりもハラハラドキドキというか、ワクワクというか。
 これは、制作から1年でコンピューター将棋ソフト世界一になったボナンザ(=大発見)が、将棋連盟に勝負を挑んだわけである。正確には、これをつくった若き技術者だが。以前将棋連盟はこういうのを拒否していたのだが、現会長はあの米長邦雄である。これを受けて立った。偉いね。指名されたのが若き竜王渡辺。これも偉いね。ほんとはやりたくなかったらしいが。竜王としてのプライドがあった。

 で、対局の模様を映しつつ、前後、間に、両者のさまざまな思いが挿入されながら番組は進む。中盤はボナンザが制していくのだが、竜王が「強すぎる」とため息をもらしたり、どんどん追い込まれていくところは観ながら息が詰まる。
 最も印象深かったのは、ある局面でボナンザが長考に入ったときだ(人間と同じようにボナンザもときに長考するのである)。そして、そのときにボナンザが何を考えていたのかのは明快にログに残るのでそれがまた面白い。(番組は何回かそのログを挿入紹介する) このとき、ボナンザは勝利に最もつながるオーソドックスな最善手をすでに見つけてはいたが、それとはまた違う一手もありはしないかと考えていたのである。そしてボナンザは後者を選択。これには竜王も虚を突かれる。このときのログは、確か7776FU!と残っていた。これは77にいた歩(FU)が76に進んだという意味である。そして肝心なのは「!」マーク。これはボナンザが賭(ギャンブル)に出たことを表すということだ。確率的な探索法だけではなく、ボナンザにはそういう思考法も組み入れられているんだそうだ。もうびっくり。文字通り機械的な思考法だけではなく、まだ不完全であろうが直感的な思考までも組み入れられているということなのだろう。ここから先竜王は敗色濃厚、しかし、最終局で勝利を確信したかのような(これもログに出る)ボナンザが選択ミス。竜王の勝利となった。

 まあ、人間が勝ってホッとしたという空気が会場に流れ、僕もそんな感じでもあったが、何とも奇妙な後味である。こういう勝負は結局人間のほうが勝つというらしいけど、いやいやこれはわからんぞと思う。実際、後日、いまも最高峰の一人と言えるあの米長邦雄会長は敗北を喫した。

 それにしてもこの不思議な後味は何だろう? いまだうまく整理できないし、言葉でうまく表せない。ま、仕事に通じることではひとつ思ったことがあるんだが。かなり時が経てば、あそうかと思うこともあるのかもしれない。とにかく何か大事なものを目撃したことは確かだ。

 

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