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おぼろ月夜

 イチョウがすっかり落葉したと思っていたら、梶橋通りのイチョウ並木の下では、植え込みの寒椿が上品な赤い花を咲かせている。これも冬の風景だな。

 訪日外国人に言わせると、東京は大都会なのに緑が多いらしい。そう言われてみると、確かにそうかも。でも、それを綺麗に維持するために多くの人が尽力していることも忘れてはなるまい。

 今週はPET検査があって、ちょっと緊張した。喉頭ガンの状態はもう寛解と言ってもいいように思うのだが、過去にPETではまったく問題なしとなったことがないんでね。来月の頭には結果が知らされるのだが、今回はどんなものか。

 先日、たまたまBSを観ていたら、「にっぽんピアノ旅」という番組をやっていた。いままで観たこともなく、こんな番組があることも知らなかったのだが、軽トラにアップライトピアノを積んで、いろいろなところに出向くというものだった。で、行った先で某作曲家がピアノを演奏して聴かせるのである。

 そのときは田舎で農作業をしている人が二人観客となった。そんなところで軽トラからピアノを下ろし、演奏する光景は何ともシュールである。NHKらしいと言えばそうかもしれないが、ヘンな番組。

 で、そのとき何かリクエストはないかと訊いたところ、年寄りのじいちゃんが「おぼろ月夜」と答えた。うーむ、これはやらせなしだな。そして渋すぎる。「おぼろ月夜」、長らく聴いたとことがないけど、僕も好きだったなあ。

で、畑をバックに「おぼろ月夜」のピアノ演奏。まっ昼間なのが玉に瑕な感じではあるが、なかなかいいものである。観客は年寄り二人、やはりシュールではあるけど。

「おぼろ月夜」について調べてみると、作曲・岡野貞一、作詞・高野辰之とある。実はこのコンビはすごくて、他にも「ふるさと」「春の小川」「春が来た」「もみじ」などの名曲が目白押し。昔の音楽の授業は彼らがいなければ成り立たなかったのではと思えるほどである。

 番組の続きでは地元の小学校に行って、そこでは「ふるさと」を演奏する。奇しくも岡野・高野コンビの曲。偶然なのかどうなのか。

でも、「ふるさと」は実は個人的に複雑な気持ちになる。

 と言うのも、6~7年前に金子書房「児童心理」に『現代ふるさと考』という論考をあげてるんだよね。(「児童心理」は自由に原稿を書かせてくれたもんで)

 そこでは楽曲「ふるさと」を取り上げ、これを「ふるさと」と「田舎」を混同させてしまった歌と論じているわけ。まあ詳細は省くけど、明治以降日本人が「ふるさと」と呼ぶものは、奈良や平安期に言われた「ふるさと」から乖離しているということ、この「ふるさと」という曲も正確に言えば、そのタイトルは「田舎」が適当であるというのが論旨のひとつ。まあ、普通にはどうでもいい話なのだが、僕はこういうことを考えたり書いたりするのが好きなもんで。具体的にはフーコーが好きなんだよなあ。

 まあ、でも、この番組は長続きはしないだろう。はからずもこの回で弱みが露呈されたと思うのだが、ピアノだけでは物足りない場合が多いのではないか。この回の「おぼろ月夜」は、やはりインストゥルメンタルよりも、歌があってナンボの曲なのである。番組を続けたいなら、ピアノではなく、由紀さおりあたりを軽トラに積んで全国を行脚すればいいんじゃないか。そしたら、ウケるよね。

 もしも僕の所に来たら「早春賦」をリクエストしようじゃないか。

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