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おにぎりの民俗学

 近年インバウンド人気もあっておにぎりがブームである。まあ、その前から東京ではおにぎり専門店が注目され、訪日観光客とは関係なく、ちょっとしたブームとはなっていたのだが。

 ところが、僕も知らなかったのだが、三重県では「おにぎりの桃太郎」というチェーン店がたくさんあるのだとTV番組で知った。創業1976年、四日市から始まったらしい。

 三重県はあまり行かないしなあ。でも去年か一昨年、伊賀のほうに行ったか。伊賀駅には松尾芭蕉の銅像があり、街中にはカラフルな忍者がたくさんいる。ここ出身の松尾芭蕉は、実は忍者だったとも言われているのだ。そうでなければ年齢的にあのような長旅は不可能だし、そもそもあれは諸国を偵察するためのものだったとも推測されている。というわけで、伊賀と言えば忍者の里、そして松尾芭蕉なのである。

 でもそれより、地質学的には、昔、琵琶湖はこの辺にあったらしいよ。それが地殻変動を経て今の滋賀県に移動したということである。

 そういえば、この近くには、鈴鹿サーキットがあるのだが、サーキットの建設前、この一帯は米所であったらしい。これは「ブラタモリ」でやっていたね。サーキット場の敷地には、建設前からあった池が埋め立てられることなく残されている。米作に必要だからだ。要は、このあたりは田んぼを作るのに好都合な湿地帯だったのではないか。それは昔々琵琶湖があったことと関係しているのかもしれない。「ブラタモリ」ではそこに言及はしなかったが、僕はそんな想像をしてしまった。

 つまり、三重県におにぎりのチェーン店があろうとは、誰にとっても予想外だと思うのだが、案外その基盤はあるんじゃないかと思うわけである。

 そして、「桃太郎」っていうネーミングは、岡山県人からすれば許せないかもしれないが、桃太郎伝説というのは実は全国にあるんだよね。岡山で独占できるようなものではない。何でかというと、それ以上に鬼ヶ島伝説というのが全国にはたくさんあるからだ。鬼ヶ島というか鬼伝説ね。

 文学的な見地からは馬場あき子の名著「鬼の研究」というのがある一方、民俗学的な見地からは鬼の伝説は「鉄」とかかわりがあるとされる。つまり鉄の取れるところ、鉱山あるところには鬼が棲むという作り話だ。要は危険な場所だから近づくなということなのだろう。勝手に掘り出す輩を近づけないという目的でもあるのかもしれない。で、鬼と切っても切り離せないものとして「鉄棒(かなぼう)」というアイテムがイメージされたわけである。

 でも「桃太郎」のネーミングはたぶん「おにぎり」の「おに」から来ているような気もするけど。単純に。

 で、おにぎりブームなわけだが。「令和の米騒動」以来、肝心の米がまったく値下がりしない。どころか、ますます値上がっている感じである。去年の2月頃、5キロ2000円程度が、1年後にはその倍。今は5000円くらいか。何てことだ。しかし、この理由もだいぶはっきりしたよね。要は財務省と農林省の失政、JAとの癒着というところだな。まあ昨今のおにぎりブームが図らずもこの問題に強い光を当てたかな。ではっきりしたのは、やはり減反政策そのものがデメリットが大きすぎたということだな。

 パン食が増え、それとともに米の需要が減っていった、だから生産を控える、ある時点ではそれも致し方なかった。だが、官僚や政治家、政策を支える学者たちはやはりデータ、数字だけしか見なかったということだろうか。そこに「主食」とは何かという問題は考慮されなかったのかもしれない。と僕の言うところは後付けなんだだけどね。でも、専門家じゃないから後付けにならざるを得ない。でも、10年前に問われていたらこう答える。

 日本人の食生活の変化、これはつまりは、米と小麦の問題なのである。欧米は言わずと知れた小麦、日本やアジアの多くは米である。とりわけ日本人は米にこだわる。だから、日本の米は他の国よりも断然美味い。アジアで食べればよく分かる。日本人にとって米は、桜のように大事なものなのである。

 その理由として、栄養素の問題があるんじゃないか。米も小麦も炭水化物の代表ではあるけれども、タンパク質も多少は含まれている。しかし、タンパク質と言ってもいろいろで、たとえば小麦は筋肉を作るようなタンパク質ではない。その点では米のほうが優れているのである。では欧米は何であんなに筋肉質で身体がごついのだ?という疑問が起こるが、そこは主食に負けないほどの肉食だからである。あるいは、硬水という背景もあろう。ところが日本は8世紀の天皇令以来1000年に渡って肉食が禁じられた国であり、魚を多く食し、欧米のような肉食文化にはならなかった。しかも、世界にも希な軟水の国である。これで主食が米でなかったとしたら、日本人の体躯はさらに小さく、さらに弱々しいものになったのではないだろうか。

 ということで、インバウンド景気には功罪あるけれども、主食の米に焦点が当たったのは幸いだなと思うのだった。

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