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当たり前の日本

 銀座のイチョウ並木からは銀杏がたくさん落ちる。毎秋のことだ。でも中央区の清掃が行き届いているので歩道の銀杏はよく掃除されている。と去年までは思っていたが、今年はたくさん落ちたままだなあ。これを踏んづけると、一日中臭いのではないかと、匂いを感じない僕だが、それだけに注意しながら歩くことになる。

 ただ、よく観察すると、昭和通りの歩道が汚いのに比べて、鍛冶橋通りのほうはきれいだ。すぐ近くなのにね。たぶん通りによって担当者が違っているのでこういうムラが生まれるのかもしれない。たいへんな仕事だとは思うが、昭和通りの担当者さんにはもうちょっとがんばって欲しいものだ。4丁目からは遠いとは言え、一応あの辺も「銀座 GINZA」の一角ではあるからね。まあ、もうすぐ銀杏の季節も終わるのだが。

 さて新潟の村上の塩引き鮭の話が面白かったと言われた。サケへの感謝を込めて二つに分けて腹を切る。そんなことするくらいなら食べなきゃいいじゃん、と言うなかれ。こうしたアニミズム的な文化は特別なことでもなく、日本人であれば誰でも「いただきます」「ごちそうさま」ということと地続きなのである。もちろん諸外国にも食事のときにこうした感謝を述べる国も多いが、食材そのものに感謝や祈りを込めるのは日本独特であろう。

 とくにアイヌの文化にはそれが色濃いかな。サケはもちろん、人を襲う熊さえも神格化される。あるいは奈良の鹿も神の使いとされていることは、ここを訪れた多くの外国人にも認識されつつあるだろう。さらには、このコラムでも述べたように、諸外国では駆除の対象としかならない虫であっても古くから愛玩の対象となるのだ。

 これはただの動物愛護とは違うんだよね。すでに熊による殺人が12件となっている北日本なのだが、それでもなお「熊を殺すな」という電話が役所に来るらしい。こういうのが薄っぺらい動物愛護というものだ。神として熊を崇めるアイヌだって自分が生きるためには熊を狩っていたのだ。

 余分には殺さないし、余分には増やさない。人間側の論理であるものの、それが人と自然との調和というものではある。

 天井にツバメが営巣すれば、真下の改札を通行禁止にしたり、外国から見たらほんとに奇妙な国として映ることだろう。でも、そんなことがじわじわと浸透していって今の日本人気となっているのかもしれない。「シートン動物記」を記したアーネスト・シートンがもしも日本を訪れていたら、ものすごく感動したのではないかな。

 こうした日本の文化、日本人の精神性はあらゆる場所で発揮されていると思う。アメリカ野球のスーパースターである大谷翔平や山本由伸は、その一挙手一投足がメジャーの規範に影響を与えている。大谷は自分に贈られたMVPのトロフィーに”TEAM EFFORT” というシールを貼った。先日、ワールドシリーズで驚異の完投勝利をあげた山本は、その直後、ダッグアウトに残って空のペットボトルを集めてゴミ箱に捨てていた。12年間年俸40億超の選手がゴミ拾い。

 それらを映像で見た人は皆彼らの「謙虚」さを褒めちぎる。けれども、正確にはそれは「謙虚」ということではない。二人にとってそれは当たり前のことであって、とくに「謙虚」を貫こうとする行為ではないのだ。いつも一緒にいるドジャースのチームメイトはそれをよく理解しているようだが、外側から見る人間にはそこまではなかなか分からないのだろう。日本人サポーターがスタジアムの清掃をして帰ることをパフォーマンス、アピールとして捉える外国人も多い。特に中国とか韓国だと思うのだが、それこそ国民性の違い、精神性の違いであって。子どものときから教室の掃除をしている日本人にとっての「当たり前」はなかなか理解されない精神文化ではある。

 しかし近年、アフリカや中東では日本の小学校教育を取り入れている国が出てきた。日本以外ではありえなかった教室の掃除、給食の配膳、日直などの制度が、異文化も甚だしい国々の公教育に取り入れられているのである。10年後、20年後これらの国がどう変わっているのか楽しみだ。

 あるいは、山崎エマ監督のドキュメンタリー映画「小学校 ~それは小さな社会~」は異例のヒットとなり、世界中で反響を呼び、オファーが絶えないと言う。そんなふうに日本の当たり前が少しずつ世界に浸透している現状を見るにつけ、日本の良さをないがしろにするようなことは止めてほしいなと思うのである。

 サッカーで言えば、かつてのオシムさんはその知性と慧眼で日本人の本質を見抜き、それを日本代表サッカーの根幹とした。その点、なでしこの現監督ニールセンはどうなのか? ヨーロッパ遠征でイタリアと1-1の引き分け、ノルウェーに0-2で敗戦。2国とも弱くはなかったけれど、勝てない相手でもなかった。しかし、チームとしてのまとまりは日本よりも上、戦術の約束事がよく守られていた感じだった。それに比べると日本はバラバラだったかな。長谷川の孤軍奮闘。これまでの女子サッカーの歴史では、負けるにしてもこういうことはなかった気がする。

 でもまあ、イタリア戦でたぶん代表初先発の松窪真心が期待以上のプレイだったね。現状、長谷川の次にいいと言えるかも。ケガで前半しか出られず、ノルウェー戦も欠場だったのが誤算だった。松窪がいれば、もっといい結果だったかもね。そうそう、北欧のチーム相手なのに谷川萌々子を先発起用しないのもヘンだったね。「解任」の声が上がっているのもさもありなんかな。

 次期監督候補には、男子ではあるが、セリエAユベントスのイゴール・トゥドール監督とかいいと思うぞ。もちろんポスト森保の候補ではあるのだが、とても日本人向きなサッカーをやっていると思うんだよね。

 と思っていたら、以前ラツィオの監督をやっていたときに、鎌田を重用していた人だった。鎌田と言えば、今やプレミアのクリスタルパレスで大活躍。ビッグチームからのオファーも来るんじゃないかと言われているほどだ。僕は1ヶ月くらい前にユベントスの試合を観ていてそんなことを思っただけなのだが、けっこう見る眼があるんじゃないかと自賛してしまった。

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