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比べてみれば

 僕が子どもの頃には、東京もけっこう雪が降ったものだが、最近はほとんど降らない。先日も降雪注意という予想だったけど、ちょっとの雨で終わったね。2月はいちばん雪が降る確率が高いのだが。大学にいた頃、4日間の受験日程では、必ずと言っていいほど雪が降ったものだ。当時は毎年試験監督にかり出されていたのだが、毎回雪が降るのでほんとに行くのが嫌だった。

 でも、この調子では今年は東京には降らないかもね。全国的には大雪だというのに。喜んでいるのはスキー場かな。ここ数年は雪不足で開場もできないところが多かったのだが、ほんとに近年の天候はよくわからない。先日は北海道の釧路や帯広でドカ雪。北海道でもあっち側はあまり雪が降らないはずなのにねえ。北海道の真ん中には旭岳などの大雪山系があるから、そこで雲がストップするんだろうね。でも、ニュースで見た帯広の街中は、一晩で腰まで埋まる銀世界だった。街中でラッセルしている姿なんて初めて見たなあ。冬山じゃないんだから。

 とはいえ、最近では雪がインバウンド需要に応えるアイテムのひとつとなっているらしい。東南アジアから来る人たちは生まれて初めて見る雪にとても喜んでいるようだ。そして日本の雪を求めて、あいかわらずオーストラリアからはたくさんのスキー客が押し寄せている。以前はニセコだったが、最近は白馬も人気が高いらしい。まあ、どちらも雪質はいいよね。

 僕の経験から言うと、本州で雪質が一番いいのは志賀高原だと思うのだが、ここが外国人スキー客であふれるというニュースは聞かない。志賀は地獄谷「スノーモンキー」で有名だから、ここまで来るのが面倒くさいということもないのだろう。推測だが、この辺は不動産を買えないのかもしれないな。

 まあいずれにせよ、寒い冬であっても観光収入は落ちないわけで、観光国としての日本の躍進は衰え知らずか。昨年は8兆円超の収入だが、今年はこれを超えるのだろうか。オーバーツーリズムとマナー知らずの中国人にどう対処するかは大きな課題だけど。

 このコラムで、オリンピックの1~2年後、「東京の木」を決める都民選挙が行われたことを書いた。候補はケヤキ、イチョウ、サクラの3つである。これを聞いて、多くの人は「何でケヤキが?」と思ったかもしれない。僕はそうでもないのだが。地味ではあるけど、ケヤキはけっこう身近な木だと感じていたからね。

 明治初期、イギリスの外交官としてに訪日したアーネスト・サトウは、日本人の妻を娶るなどして、真の日本好きだった。彼は日本のあちこちを巡り歩き、山に登り、それを記した。彼の本を読むと、山梨経由で富士へ向かうとき、たくさんのケヤキ並木があると書かれている。ああやっぱりね。ケヤキと言えば府中だからな。府中駅近くの大國霊神社の大ケヤキはつとに有名だ。大國霊神社は、府中駅から東京競馬場に歩いて向かうときに必ず経由する場所なのである。

 大國霊神社の起源は西暦111年とひじょうに古い。出雲の大国の主と同じ神が祀られ、武蔵の守り神としてここにつくられた。ちなみに、この神社から数キロ北には、8世紀に武蔵国の国分寺が建立されているので、この地域は関東でも神霊の気が濃い一帯と考えられていたのかもしれない。

 大國霊神社に祀られる大神はスサノオの子どもなので、戦の神とも位置づけられるのだろう。室町時代、源頼家が戦勝記念にここにケヤキを植えたということである。鎌倉時代も、頼朝が安産祈念で訪れたり、社殿が造営されたりした。その後徳川家康は江戸入城にあたり、このあたりにケヤキをたくさん植えたということである。だから府中はケヤキだらけで、甲州街道を西に進むアーネスト・サトウの眼にもすぐに入ってきたというわけである。

 だからケヤキが都民の木候補に挙がってもおかしくはないのだが、やっぱり地味だよね。シンボルとしては弱かった。でもね、製材としてはいちばん良い。人気はサクラだろうが、役に立つという意味ではケヤキに軍配が上がるのではないか。

 サクラの人気は江戸時代からだよね。ここでも書いたけど、当初は川の氾濫を防ぐためのものだった。土手沿いにサクラを植えれば、その見学で歩く人が増え、踏み固められて堤防の強化になると意図された。隅田川のサクラがその例である。

 その一方、江戸に屋敷を構える大名たちは、一年おきに藩政のために領地に帰る必要があったのだが、その家族は人質として江戸に残されたのだった。その家族の心を慰めようとサクラを屋敷に植えるようになった。それが大流行。全国でも東京にサクラの木が圧倒的に多いのはそういう理由だし、今日のサクラ人気の土台となっている。決して古い昔からではない。万葉集に出てくる花は梅が圧倒的だし、散見されるサクラも、奈良や平安の時代にあってはほとんど八重桜である。だからか、関西には今も八重桜が多い。

 サクラの寿命は60~100年といったところだが、ケヤキは1000年と言われている。樹齢3~400年くらいの大ケヤキは全国にたくさんあるよね。でもさらにすごいのがイチョウ。その寿命は数百年から数千年と言われている。日本でいちばん長寿なのは屋久杉だけど、杉はデカすぎて都市部になじまない。そういう意味では、イチョウが都民の木になったのもやはり納得か。

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