菅野所長のエッセイ:笑顔の力


ビッグなニュースと言えば、全英女子オープンでの渋野日向子だ。若干20歳。これはとんでもないことだね。遡れば、42年前の樋口久子が全米女子プロで優勝して以来のメジャー征覇。女子ゴルフの場合には、80年代、岡本綾子がアメリカに乗り込んで、明らかに世界一だと思われる実力を示したものだったが、メジャーだけは勝てなかった。近年では、宮里藍もがんばったが、2勝したエビアン・トーナメントはまだメジャーに昇格していなかった。

今回のひなちゃんは、ほぼ今年がルーキーイヤーで、初の海外試合で優勝しちゃうんだからすごい。もっとも日本での初勝利も国内メジャーだし。たぶん日本人では史上最も強い女子ゴルファーかもしれない。

僕は首位になった3日目、最終日と、深夜までテレビ中継に釘付けだった。とくに最終日はあっという間に首位から陥落、こりゃダメかなと思っていたが、後半に怒濤の盛り返し。その最終日の後半は4選手くらいが1打差をめぐってのつばぜり合い。ボクシングで言えば、足を止めての撃ち合いのようになり息を呑む迫力である。最終ホール、これを決めれば優勝というパットは、打った瞬間ドキッとする強さ。でもこれが転がり込んだ。あんなシーンでああも強気に打てる選手はなかなかいない。ほんとに力でもぎ取った優勝だから価値があるなあ。

欧州メディアが「スマイリングシンデレラ」と命名し、その屈託のない笑顔が話題となったが、どの選手に聞いても「あんなことはできない」と答える。普通、真剣勝負の場では笑顔などつくれないのだ。以前丸山茂樹が米国ツアーに参戦していたときに、にっこり笑って人を斬るというイメージから「スマイルアサシン」と呼ばれたこともあったが、ひなちゃんの場合はスケールが全然違うし、笑顔の質も違うようである。
では、質といっても、それは何なんだ?ということになるが、なかなか説明は難しい。しかし、彼女が笑うと、なぜだかそれに引き込まれるのは確かである。観ているこちらも楽しくなる。
邪気がないんだろうね。向こうのテレビも、つねに彼女の笑顔をフォーカスしようとし、観客も皆その笑顔を追うのである。テレビで観ている僕もそうだ。心理学では「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」という昔からの理があるが、こちらは「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのだ」ということか。

いわゆる天然と呼ばれるものかもね。勝っても泣かないところがあるし。つまりは、これまでのスポーツ界にはいなかったタイプということになる。だから今のところその器量を測れないし、定義もできない。わかるのは、今現在では、新人にして、日本史上最強の女子プロゴルファーだろうということだけだ。最近では、韓国のコ・ジンヨン、パク・サンヒョンの二人が抜けている世界の女子ゴルフ界だが、これに対抗しうる存在ではないかと思える。ただ、そのためには課題がある。小技がうまくなることだ。でも、そこはまだ20歳。伸び代はひじょうに大きい。
男子では松山がパッとしない現状、世界で戦える選手として彼女の今後に注目である。