菅野所長のエッセイ:勝ったのは百姓だ


まだまだ残暑が続くけど、やはり一時期ほどではない。まあ、西日本に比べたら東京はマシだな。

この間まで、ホットな話題は秋田、金足農業の活躍だった。あまり高校野球には関心がない僕でも、決勝は気になったものな。春夏連覇をした大阪桐蔭だが、すっかり食われてしまった。かわいそうだがしかたない。判官びいきってやつでね。昔の青森三沢、東京の国立のときはもっとすごかったぜ。
それにしても、世間の声は負けても「よくやった」である。「勝たなきゃ意味ないよ」という、あのW杯のようなことはほぼない。野球ファンとサッカーファンの気質の違いというのもあるのだろうがね。

確かに野球というのは変なスポーツで、他に比べれば、ピッチャー以外はあまり一生懸命働いている様子もなく、そういう意味ではひじょうに退屈なスポーツである。試合もダラダラと長い。その退屈さを埋めるために、野球は物語を必要とする。その物語とは単純なもので、公立校、部員が少ない、予算がない、有力選手を集められないなど、要するに、恵まれない者が恵まれている者に勝つというものである。
しかしながらこの物語は、狡猾なことに、だから負けてもしかたがないという保険がかかっている。秋田県はもちろん、日本中が応援しつつも勝利への期待は緩やかだ。決勝で惨敗しても誰も選手を責めはしない。

かく言う私も金足農業を応援していた一人である。出張などで秋田に行くたびに閑散とした繁華街に心を痛め、もとより自殺率のひじょうに高い県であることも気になり、秋田の人々に少しでも活力が生まれることを祈るからだ。そして、その願いは優勝こそしなくとも叶ったような気がする。結局、僕は、野球自体はどうでもよくて、それ以外のところに関心を寄せているのである。

学校への寄付金が全国から2億近く集まったり、その後のフィーバーぶりを見れば、優勝したのは大阪桐蔭だが、勝ったのは明らかに金足農業である。映画「七人の侍」の最後に、激戦を生き残った志村喬が加東大介にこう言っているではないか。
「勝ったのはわしたちではない。勝ったのは百姓だ」
勝ち負けと言えば、昨日は、何とU-20のW杯で、なでしこが優勝。本代表の凋落ぶり、ダメダメぶりを見ている者にとっては、???がいっぱいつく衝撃である。準々決勝でドイツに3-1で勝ったところから、この???は始まり、決勝はスペインに3-1で勝って!!!に変わった。とくにスペインの若手は相当強いと聞いていたので、まさかの勝利である。数年後を考えたら、数人残して本代表と入れ替えした方がいいんじゃないの?
一方で、U=20男子代表のダメっぷりときたら本当に情けないかぎりである。せっかくW杯で希望が見えたのに、この世代からは誰も上がってこられないとわかって、がっくりである。
今日からは最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャが始まる。いつも言うけど、ブエルタは映像がすごいんだよね。スペインの光は濃いんだよなあ。
スペインと言えば、来週末に神戸で学会があるので、ついでに兵庫県立美術館にベラスケス展を見に行こうと画策している。東京のは行けなかったのでね。僕は、ベラスケスの絵と、ヴィクトル・エリセの映画があれば至上の官能を味わえるのだ。スペインに感謝。
ということで、来週はこのコラムはお休みです。